一等星でも三等星でも

□確認
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「さーて、どーすっかな」
「見ちゃったって素直に言えばいいじゃないか」
「それはそれで及川がうるさそう」
「確かにな」
「岩泉はどう思う?」
「俺は……」

及川とは長い付き合いだが、あの日ほど意味不明な行動を取ったことはなかった。廊下で初めてあった女子に告白。最初は悪ふざけか何かかとおもったが、そんなことは考えずとも違うと確信した。悪ふざけでやるような事ではない。

及川の目は至って真剣だった。あまり見せない真っ直ぐで真面目な顔で。いつのことだろうか、女子に見せる事はない本当に優しい表情で例の1年女子と帰っている様子を見掛けたのは。よそ行きではない及川の顔を短時間で引き出せたあの女子を及川はかなり気に入っているのだろう。

だったら

「…俺は、言わねぇ方がいいと思う」
「へえ。何で?」
「なんつーか、そっとしておいてやりてーから」

俺の言葉に驚いたように目を見開く花巻と松川。

「何だよ」
「いやー、ねえ?」
「うん」
「二人だけで納得すんなよ」
「岩泉がそういう言い方するってことは、俺たちは首突っ込まない方がいいよな」
「どういう意味だ」
「そのまんまだよ。今までの経験上、お前がそういう顔した時は、あんま触れない方がいいからな。」

何なのか良く分からないけれど、二人の目は真剣で、なんとなく良い意味で心を見透かされているような気分になった。こいつらとも、及川ほどではないが、多く言わなくても分かり合える。この関係は悪くない。

「なんか…ありがとな」

照れ臭くもあるけど、感謝していることに変わりはない。目が合うと、二人は笑って頷いてくれた。




「遅いよ三人ともー!」
「わりーわりー、岩泉がトイレ長くてな」
「そーそー。岩泉がなー」
「ふーん。岩ちゃん便秘気味とか?」
「おい、お前ら!!」

前言撤回。こいつらは油断も隙もあったもんじゃない。
とにかく俺は、近くにあったバレーボールを及川に投げつけるべく、拾い上げた。





「あっ」
「えっ」
「おっ」
「わっ」

部活が終わり、最後までノロノロと支度する及川を叱りつけて引きずりながら歩き校舎の前を通りかかると、暗くなった昇降口から喋りながら出てきた二人組の女子。途端、俺に引きずられていた及川は姿勢をただした。

二人の顔が月明かりに照らされ、お互いに誰が誰だか気付き、思い思いに先程のような驚きの声をあげた。

僅かな沈黙のあと口を開いたのは吉田サンだった。

「えっと、今晩は。及川さんと、あの、えと、岩ちゃんさん、はマズイですよね?」
「それは無いな…あー、岩泉で頼む」
「あ、はい!岩泉さん。私、吉田です。」
「おう、及川が世話になってるな」
「いえいえ、そんな!」

どうにもおかしい。普段ならば絶対に口を挟んでくる及川が静かすぎる。とりあえず、所在なさげにしている吉田サンの隣の女子に目線を向けると、ビシッと姿勢を正して

「私、結衣と一緒のクラスの樫田です!」
「よろしくな。吉田サンたちは、なんでこんな時間まで学校にいるんだ?大分遅いだろ」
「吉田でいいですよ。勉強してました」
「そうか。で、及川」
「おわっ、えっ、はい何?」

何故か物凄くビックリされた。
無性に腹が立ったけど、本題はそこではないので、こらえる。

「お前、駅まで吉田送ってけ」
「はいはい。……は?ちょっ、岩ちゃん!?」
「樫田、お前バスか?」
「あっ、はい!」
「じゃあ、お前は俺が送る。行くぞ」
「は、はい!」
「えっ、玻琉?」
「岩ちゃん待ってってば!」

ガチガチになっている樫田をさっさと歩かせ、学校を出た。

「何か悪いな」
「い、いえ」

特に話すこともなく沈黙が続くが、さっきから樫田は、チラチラと俺を見てくる。

「言いたい事有るなら言っていいぞ」
「へっ!?」
「構わねぇから」
「っ……あの、及川さんは結衣のコト、本気なんでしょうか」
「あー、悪いが俺にもそれは分からない」
「……」
「だが、」
「はい?」
「ここまで来て、本気じゃないとか言ったら、俺はアイツをぶん殴る」
「!…そう…ですか。よかった…あ、でも暴力はダメですよ?」
「あ?誰がなんと言おうと、俺は殴る」
「やめて下さいってば」

そんなやり取りを続けるうちに、お互い楽しくなってきて、声をあげて笑っていた。

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