一等星でも三等星でも

□重要
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「もうやだ!疲れたっ!!わかんない!」
「うわっ!」
「ちょっと、危ないじゃん」
「猛獣危険」
「捕獲しろ」
「あんたらヒトゴトだと思ってるでしょ!」
「まあ、ヒトゴトだもんね」
「ねー」

大声を上げて立ち上がったのは、さっきまで山積みの課題プリントやワークを目の前にし、それでもうんうん言いながら必死で解いてた友人の玻琉。しかし、やる気を失った彼女は、立ち上がると同時に手に持っていたシャーペンを机に叩きつけた。かわいそうなシャーペンは跳ね返って玻琉と机を挟んで座っていた私の肩スレスレの所を通って行った。

こんな事になったのは、全て玻琉の責任。なんたってこの子は、勉強が大っ嫌い。そのため、成績は早くも卒業できるか怪しいレベル。それを案じた先生方は、御丁寧に沢山の課題を玻琉にプレゼントしたのだった。が、当然それを玻琉一人で片付けられる訳も無く、放課後、私と美恵は教え役に駆り出された。

「ねえ、これ欲しい?20枚もあるの!」
「ネズミの国のプリンセスじゃあるまいし」
「現実逃避してないでさっさと進めなさいよ」

言葉通りプリントを20枚掴んで遊びだした玻琉に喝を入れ、勉強を再開させようとしたけれど、なかなか思うように進まなくて、どんどんペースが落ちていく。
そして、ついに

「私、、もう諦めた」
「は?」
「2人と一緒に2年生になれない。私の事はもういいから、後はよろしく」
「ちょっと、玻琉?」
「頑張りなよー」
「ダメだね、魂抜けてる」
「玻琉、私お菓子とかジュースとか買ってきてあげるから頑張ってよ」

甘い物には目が無い彼女には、いい話のばず。案の定、玻琉は抜けていた魂を引っ込めて、バッと顔を上げた。

「それって、結衣のおごり?」
「今回だけだよ。美恵、後は頼んだ」
「おっけー」
「私頑張る!!!」
「はいはい」

単純に燃えだした玻琉を尻目に教室を出て、階段を降りた。校舎の一階にある購買の横には自販機のコーナー。その中には、お菓子の自販機もあり、生徒達から人気が高い。

階段を下り終え、真っ直ぐな廊下を歩いていると、目に入ってきたのは自販機の列、の前に立っている背の高い男子。長い脚と、綺麗な茶髪に連想させられる人は一人しかいない。私の足音に気付いて、ゆっくりと振り向いたのは、やっぱりその人。

「及川さん、」
「あれ、結衣ちゃん。どうしたの?」
「私は、お菓子と飲み物を買いに。及川さんこそ、部活はいいんですか?」
「今、休憩中なの。甘い物飲みたくなっちゃって」
「そうでしたか」
「てかさ、結衣ちゃん」
「はい」
「俺、名前で呼んでって言ったよね?」
「あっ」
「忘れないでよー」
「頑張ります。」

なんとなく会話が終わったので、自販機に近付いて、とりあえずイチゴオレと美恵用にコーヒーを買う。次いで、玻琉の好きなチョコレート菓子を、いくつか買って、腕に抱えた。その間、後ろから、ひしひしと視線を感じた。

「…あの、おいか、じゃなかった。と…徹さん、私に何か?」

振り返りながら言うと、壁に寄りかかって手の中で缶を弄んでいた彼はハッとしたような表情になり、目を宙に泳がせた。

「えっと、あの、特に何も無いよ」
「そういうの良くないです」
「えっ」
「もしかして、私の背中に虫とか付いてるんですか?」
「いや、違うって!今日は強気だねー」
「いつも通りですよ」

私が言い切ると、彼はなんとなく決まり悪そうに頬をかいて、さ迷わせてた視線をこちらに向けた。

「今日は髪をおろしてるんだなって」
「え?」
「いつも結んでるじゃん?だから雰囲気違うなと思ったの」
「それだけですか?」
「それだけです。って、俺ね結構頑張って言ったんだよ!?」
「いつもそういう感じの事、女の子に言ってるじゃないですか」
「そうでもないからね!」
「どうでしょうね」
「あのね、もしそうだとしても…」

そこで一旦言葉を切ったので、私も何も言わずに見上げた。すこし迷ったような表情を浮かべるも、すぐに柔らかい笑顔に変わった。

「君は特別なの」
「!」

思わず固まった私を見た徹さんは、にこにこ笑顔を崩さずに、一歩二歩と後ずさりをして、ある程度距離を取ると

「じゃあね」

と一言。そして踵を返すと、風のように走り去ってしまった。

『特別』

とくべつ、トクベツ、ああ本当に

「…意味わかんない」

何だって、いつだって予想外ばっかり。

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