一等星でも三等星でも

□仲介
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青城男子バレー部の3日目進出が決まり、自動的に明日は公欠になる。授業が無いのは嬉しいけれど、勝負が着いた時の何とも言えないあの感覚が脳の裏側に張り付き、明日もそれを味わうことになるのかと思うと、むずむずする。

アイドルのファンのように出待ちをするとか言い出した友達を送り出し、足を進めると自然と図書館に辿り着いた。昔から図書館はお気に入りの場所の一つで、よく通っている。
ゆっくりと棚を見て回り、結局足を止めるのは毎回お気に入りの棚。何冊かを手に取って席に着き、そのまま全てを忘れて本の世界にのめり込んだ。

『……当館は閉館15分前となりました。貸出手続きの済んでいない方は…』

「…えっ!」

慌てて時計を見ると8時になる15分前。夢中になりすぎた。携帯を見ると親からのメッセージと着信が数件。今から帰る旨を伝えて、小走りで帰路に着いた。外はすっかり暗くなり、街灯が頼りなく黒いアスファルトを照らしている。

どのような事に気を回そうとしても、思い浮かぶのは今日の試合。テレビで見た事はあったけど、実際に会場に行った経験はなかった。勝ちへの、一点への執着があんなにも重く、熱い物だというのを身を以て感じた。ただただ、凄いとしか言えなかった。あの及川さんが、普段の飄々とした態度から一変、全く違う顔でボールを追いかけ、必死で繋ぐ姿を見たら、“凄かった”という言葉以外は無理に当てはめては、いけないような気がした。

あんな顔もするんだな

バレーは完全にあの人の生活の一部で、無くてはならない物なのだろう。あんなサーブは相当の努力なしには打てない。必死に一つのことを追いかけ、高いレベルに達しても尚、満足せずに追い続ける。

「……凄い人なんだなぁ」
「誰が?」
「…………うわっ!」
「俺、幽霊じゃないんだけど」
「驚かさないでよ、国見くん」
「声掛けたのに全然気づかなかったから」

本当に本当に小さく呟いた言葉を拾い、返事をされて最近でも中々無いくらいに驚いた。しかも、白いジャージなので幽霊っぽい。そして、更に国見くんの後ろには、らっきょう君が所在無さげに立っていて、軽く会釈をするとビシッと姿勢を正しバッと頭を下げてきた。

「お前やりすぎ。あ、吉田さん、こいつチームメイトの金田一。」
「よろしくお願いします」
「あ、うん。こちらこそ」

らっきょう君改め、金田一くんは何故か敬語で、もう一度頭を下げてきた。その様子を半目で見る国見くん。仲が良いんだなとすぐに分かった。

「凄い人って及川さんのこと?」
「……ん?」

いきなり話を振られ、フリーズする。対する国見くんはいつも通りの無表情、後ろに立っていた金田一は、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

「だから、さっき吉田さんが言ってた凄い人って及川さん?」
「…えっと」
「別に隠す事でも無いんじゃない?」
「まあ、うん。そうだよ」
「珍しいよね」
「えっ?」

思わず聞き返すと、国見くんは金田一くんにも「だよな?」と、同意を求めており、金田一くんは一瞬詰まったものの「たしかに」と頷く。

「珍しいって、なにが?」
「及川さんの事。カッコイイとかステキって言うんじゃなくて“凄い”って言う女子は初めて。」
「そゆことか」
「何で、“凄い”って思ったの?」
「……わかんない」
「……?」
「カッコイイとは思ったよ。でもね、それだけじゃないんだ。それだけじゃ片付けられないぐらいの何かを及川さんは持ってる気がした」

そこで言葉を切って、二人を見上げると何故か二人ともキョトンとしていた。

「どうしたの?」
「……やっぱ、吉田さんは珍しいな」

神妙な顔で呟く国見くんと同じ顔で頷く金田一くん。取り敢えず、もの凄く気になるリアクションだ。でも、私が何か言う前に、国見くんは、じゃあねと言って金田一くんを連れて歩き出してしまった。追求したいのは山々だけど、今日の疲れも溜まっているだろうし、明日も大事な試合なので止めておこう。

「明日、頑張って応援するから!」

去っていく背中に呼びかけると、振り向く長身二つ。金田一くんは、またもや直角のお辞儀。国見くんは少しだけ口角を上げて、よく通る声で「よろしく」と応えた。

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