一等星でも三等星でも

□明確
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体育館に響く大きな声と床に叩きつけられるボールの音。コートの上では背の高い男子たちが飛んだり滑り込んだり。あんなに大きな身体で機敏に動いている姿と、圧倒されるその雰囲気に思わず息を呑む。

「…すごいねぇ」
「「「でしょ?」」」

なぜか得意顔の友人3人は昨日も見に来ていたらしい。私は用事があったので来れなかった。
青城の人達がどこにいるのか首を巡らせるが、すぐに白いジャージの集団が見付かる。反対側の応援席に陣取り、手すりに掛かった横断幕には「コートを制す」の文字

「……かっこいいなぁ」
「なにが?」
「青城の横断幕」
「結衣って着眼点ズレてるよね」
「えっ」

更に横断幕よりも目に付くのは、女子の集団。制服や私服の青城女子の他に大学生や中学生ぐらいの女子もいる。

「あれって全部及川さんのファンかな」
「だろうねー」
「あっち行かない方がいいよね」
「何で?」
「結衣、あんたが特に危険」
「…!…そっか」
「こっちで見よう」
「だねー」

近くの椅子に並んで腰をおろし、公式WUを見下ろす。コートでは青城の選手たちがスパイクの練習をしている。

「ね、相手ってどこの高校?」
「えっとー、鳥…あっ、烏野だね」
「ふーん」
「…及川さん、セッターなんだ」
「結衣ってバレー詳しいの?」
「うん。親が昔バレーやってたから、色々聞いてるの」
「へえー」

及川さんがトスを上げ、それを次々と打っていくスパイカーたち。一人一人がとてものびのびと打っているように見えた。スパイカーのレベルが高いのは見て取れるが、それ以上にセッターの及川さんの技術が飛び抜けているのが分かった。審判の笛がなり、青城の選手はボールを集め入れ違いに烏野の選手たちがコートに入る。

脇に避けた青城選手のうちの一人がこちらを見上げた。というよりは、軽く視線を巡らせた。そして、一度通り過ぎた視線は戻ってきて私を捉えた。その人の名前は確か花巻さん。花巻さんは少し笑った後、近くにいた及川さんをつっつき、目線で促す。目が合うと及川さんは、ぱっと華やかな笑みを浮かべて小さく手を振った。それに小さな会釈で返すと突き刺さるような視線を感じた。視線の発信元は青城応援席にいる女子達。

「今のでも気付くんだ」
「…こっわ」
「…ね」

背筋の寒くなるような思いでコートに視線を戻すと今度は国見君と目が合った。口パクで「ガンバレ」と伝えると、少しだけ目もとを和らげて頷いた。

「浮気ですかー?」

隣にいた美恵にガシっと肩を組まれる。

「なんでそうなるの!国見君とはそういうのじゃないってば!」
「……じゃあ、及川さんとは“そういうの”なの?」
「…え?」

からかってる訳ではない、と思う。けれど美恵は今まで見た事の無い顔でコートを見つめていた。

「……美恵?」
「あっ!試合始まるみたい」

さっきまでの表情を片付け、いつもの笑顔で楽しみだねと笑いかけてきた恵美に曖昧に頷いてコートを見下ろした。

始まる前までは美恵の様子が気になって仕方がなかったのに、試合開始と同時にあっと言う間に引き込まれた。瞬きを忘れさせるほどの激戦。初めは優勢に見えた青城に烏野が負けじと食らいつく。

勝負は3セット目へもつれ込み、点数は拮抗し、完全に膠着状態へと陥った。気付くと、両手でスカートを握り締め、瞬きさえも忘れるほど見入っていた。
隣にいたトリオもいつの間にか静かになり、ひたすら勝負の行方を見守っていた。

勝負はいつか付くもので、最後の最後に歓喜の声をあげたのは青城だった。
体育館には割れんばかりの歓声。それに埋もれる烏野の悲観に暮れた小さな声。コートに座り込む選手も見られた。勝ったのは青城で、それはとても喜ばしい事なのに、何故か烏野の選手達から目が離せなかった。

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