一等星でも三等星でも

□静観
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「げっ、あんた今日もパンなの?」
「仕方ないじゃん!お母さんと喧嘩したんだから」
「へー初耳」
「結衣のお弁当はいっつも美味しそうだよねー」
「でしょー!」
グダグダと話をしながらゆっくりと箸を進めること15分。空になった弁当箱を包み、いつもの雑談を始めようとしたその時静かな声が降ってきた。

「吉田さん。そろそろ時間じゃない」
「…え、何の?」

聞き返すと声の主である国見君が眠たそうな目を少しだけ見開いた。

「朝のHRで先生が言ってたの聞いてなかった?」
「うっ…はい」

朝のHR……全てを考え事に費やしていたため、全く記憶がない。
正直に認めると国見君は小さく息を吐いて続けた。

「俺たちの委員会、1時から社会科教室で集まりあるんだって。総体の事らしいよ。」
「そうなんだ。ごめんね」

時計を見るとあと5分で始まる。本当にいいタイミングだ。

「何か持って行くものあるかな」
「筆箱ぐらいでいいんじゃない」

了解。と呟いて机から筆箱を引っ張り出す。がんばれーと気の抜けた声で後押しする友人たちに手を振って教室を出ていく国見君の後を追った。
教室内は騒がしいけれど、廊下は比較的静かで二人分の足音と、教室に収まりきらなかった騒音が響く。それをかき消すように国見君が口を開いた。

「…昨日、どうだったの?」
「……はい?」
「だから、及川さんと帰ったんでしょ」
「…うん」
「どうだったの。楽しかった?」

こちらに顔を向ける事無く淡々と話す。

「……うん」

別に隠す事でもないので正直に返す。

「……何かあったの」
「…何で?」
「吉田さんって結構真面目でしょ。担任の話を聞き逃すような感じじゃないから」
「…別に、何もなかったよ」

これは半分嘘。国見君が見抜いたのか、そうではないのか分からないけど、ちろりとこちらに視線を寄越した後、不思議な声色で「ふぅん」と呟いた。気がつけば目的地に到着しており、中に入ると委員会のメンバーが座っていた。適当な席に私達も腰を下ろし、時間通りに先生が入ってきて始まった。

我が校には応援委員会というものがあり、毎年総体の季節になると色々な部活の大会に赴き、応援に加勢する。とは言っても、実際活用されているのは強豪である野球部と男子バレー部のみとなっている。(これに対し生徒達からは少なからずクレームがあるようだった)3年生は受験があるので自由参加になっている。

配分は1年が男子バレー部へ、2年が野球部へと決まっているらしい。
けれど、先生曰く男子バレー部の試合は、土.日.月にあり、月曜が決勝戦になっている。そのため、もし月曜までバレー部が勝ち残れなかったら行く必要は無くなる。とのことだった

その話を聞きながら横の国見君に視線を飛ばすと、彼は少し眉を寄せ、手をきつく握り締めていた。



委員会が終わり、行きと同じルートを辿って教室に帰る途中、少し気になって思い切って聞いてみた。

「国見君、さっき怒ってた?」

彼は少し驚いた顔をしたが、すぐに無表情に戻る。

「もしも負けたらとか、決勝まで残れなかったらとか言われると腹立った。もしもの事態について説明しておくのは必要だけど、俺達は絶対に決勝まで残るつもりだから…」

表情は変わっていないものの、声からは苛立ちが読み取れた。国見君も顔には出さないだけでバレーを、部活を大事にしているんだな。

「その……無責任って言うか、外野の人間が何言ってんだって思うかもしれないけど…」
「…何?」

国見君は足を止めて振り返った

「…頑張って!土日も行けたら応援行くから!」

こんな事しか言えないけれど。でも国見君は少し笑って

「…ありがと」

ついでに余計な一言。

「及川さん、試合だと凄いカッコイイから期待しときなよ」
「なっ…」

ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて踵を返し、さっさと歩いて行くその背中に、何故かしどろもどろの反論をぶつけて追いかけた。

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