一等星でも三等星でも

□踏破
1ページ/1ページ

「で?」
「え?」
「だから、で?」
「ちょっ、何のこと?」

朝練前の部室で挨拶もそこそこにニヤニヤ笑いを浮かべながら謎の質問をしてくる2人、花巻と松川。

「だから、一緒に帰った感想は?ってこと」
「分かんないとかマジかよ」
「うん。なんかごめん」
「で?」
「どうでしたか?」
「別にどうもこうも…フツーだったよ」
「言いながらにやけてんじゃねぇよ キモ及川」
「岩ちゃんひどい!!」

フツーとか言ったものの実は結構楽しかったのは筒抜けだろう。どことなく相棒で幼馴染みの岩泉に似て、かなりサバサバした性格で決して俺が他人との間に引いた線に踏み込んで来ることもない。はっきり言って女子の中では珍しいタイプだし、だからこそ居心地が良かった。

「そういえば、なんで国見と帰っていたのか聞けたのか?」
「あぁ、うん」

聞くと特に隠すことなく教えてくれた。国見と吉田は同じ委員会だったが、あの日バレー部は練習試合があり、国見が委員会に出れなくなってしまった。後日内容を教えるつもりだったが 帰りにたまたま会い、帰る方向も同じなので一緒に帰りながら内容を話したらしい。

「…マジで何もねーじゃねぇかよ、国見とその女子」
「早とちりだったな」
「早とちり及川」
「なげぇな」
「早川」
「誰だよ」
「人の名前で遊ばないで!」

そう、居心地は良かった。ある一瞬を除いては。



『そういえば、及川さん。私も聞きたいことがあるんですけど。』
『なに?』
『……なんで私に告白したんですか?』

少しの躊躇いをにじませ吐き出された言葉に、思わず表情が固まった。何故と言われても自分でも分からないからだ。ただ、どうしても目が離せなくなって気付いたらその腕を掴んでいた。けれど、そんなこと言える訳ない。考えれば考えるほど苦しくなって頭がまわらない。

『…すいません。聞かない方がよかったですね』
『…っ』
『歩きましょ』

そう言われて、いつの間にか足が止まっていたことに気付いた。慌ててぎこちなく足を動かして彼女を追った。頭に残ったのは申し訳なさそうな、それでいて少し悲しみを含んだ笑顔だけ。

「百面相」
「ニヤケたと思ったら今度は泣きそうだな」
「おい、早川!朝練そろそろ始めんぞ!」
「…人の名前で遊ばないでってば!」

下がりかけたテンションを無理やり上げて笑顔を作った。



「…結衣?結衣!」
「…ひっ!はっ、はい!」
「何ぼーっとしてんの」
「え、あー…うん」
「昨日何かあったの?」
「…んー」
「まさか!おそわれt」
「そんなわけないでしょーが!!何でそうなるの」

じゃあ、どうしたの?と聞く美恵に答えられずにいるとチャイムが鳴った。不満そうにしながら席に戻る美恵を苦笑いで見送って、始まった先生の話を耳へと誘導するが、内容はほとんど入ってこなかった。

あの質問はまずかったのだろうか。苦しそうに顔を歪ませ、目を泳がせる及川さんに何故かこちらまで苦しくなった記憶がある。人の気持なんて考えても無駄だと思うものの、その顔が頭から離れなくて。そんなこんなしてるうちにHRは終わっていたらしく、皆授業の準備をしている。確か次は古典で、教室で授業がある事を確認して頭を整理すべく机に突っ伏した。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ