一等星でも三等星でも

□境界
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「ほら、あの子」
「及川くんが廊下で告ったって子?」
「そうそう」
「…なんか、ねぇ」
「フツーだよね」
「ぶっちゃけどこがいいのか…」

ヒソヒソと囁かれる嫉妬に染まった言葉。どこがいいのかなんて私が聞きたいぐらいだ。

「…ねぇ、結衣。気にしない方がいいよ」
「ん?」
「…え、あの、えっと、」
「大丈夫だよ。全然気にしてないもん。むしろ最もな事言われてるなって思ってる」
「…鋼のメンタル」
「なにそれ」

クスクス笑っていると、廊下にいた女子達が色めき立つ。案の定現れたのはニコニコと笑顔を浮かべた及川さん。ぱっと視線が噛み合い、リアクションをする間もなく長い脚で近付いてきた。

「吉田ちゃんって、国見ちゃんと同じクラスだよね?」
「国見君ですか?そうですけど。」
「じゃあ、これ渡しておいてくれない」

手を取られて、ポンと載せられたのは英単語帳。そういえば今日テストだったか。

「国見ちゃん、朝練の後部室において行っちゃったから。」
「わかりました」

頷くと、及川さんは満足気にヨロシクねと笑って帰っていった。後に残された私に刺さる刺々しい視線。

「…こわ」

美恵が小さく呟いた

教室に戻るとまっさきに国見君を探す。が、彼は昼寝中のようだ。国見君に向かい合って座っている男子は他クラスだろう。見覚えは無いが、らっきょうの様な髪型が特徴的だ。黙々とスマホをいじっている。

取り敢えず机に置いておこうかなと近付くと、らっきょう君が顔をこっちに向けて、硬直した。私の顔はそんなに変なのだろうか。

「……及川さんの彼女」
「…えっ?」
「あ、いや、あの」
「あー…付き合ってはないよ」
「えっ」
「ただの、オトモダチ」
「!…そうなのか?」
「うん」
「…………」
「…………」
「あっ!国見に何か用か?こいつ昼休みはずっと寝てるんだけど」
「…及川さんが国見君に部室に英単語帳届けに来て、私が託されたから。でも寝てるみたいだし机に置いておこうと思って」
「……起きてる」

突然のくぐもった声と共に国見君がゆっくりと顔をあげた。

「珍しいな、起きるなんて」
「お前が五月蝿いから」
「えっ、俺?…悪い!」
「別にいーけど…吉田サン、単語帳ありがと」
「あ、うん」

渡そうとした瞬間ページの間からひらりと折り畳まれた紙が出てきた。拾い上げると少し丸い字で

“吉田ちゃんへ”

「…なんだろ」

国見君とらっきょう君も少し興味深げな表情

紙を開くと同じような丸い文字で

“今日一緒に帰れないかな。昇降口で待ってます 及川”

思考停止。更に追い討ちを掛けるように耳に響く国見君の声

「…オトモダチじゃなかったの?」

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