一等星でも三等星でも

□疾走
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入学して早2週間。広い校舎は未だに慣れず、ここはどこだろう事件が頻発している。それでも、新しく出来た友達と過ごす学校生活は随分充実して楽しいものだった。

ある水曜日の昼。4限が化学だったので、化学実験室から友達と今日のお昼や、5限について話しながら廊下を歩いていると、突然友達のうちの一人がなんとも形容し難い声をあげて、固まってしまった。その可笑しな声に軽く笑って他のメンバーを見ると、全員ある一点を見詰めて目を輝かせている。

「ちょっと、何?どうしたの?」

周りと同じ方向を見ると、背の高い茶髪のイケメンさんの姿。周りにいる女子たちにニコニコ笑って手を振っている。イケメンさんのお友達は嫌そうな目でイケメンさんを見ている。上履きの色からして3年生だろう。

「ねえ、あの人だれ?」

聞いた途端、友達は凄い勢いで振り向いて、宇宙人を見つけたような顔でこちらを見た。なにさ、知らないものは知らないとしか言いようがないだろう。

「ちょっと、結衣!及川さん知らないの!?」
「オイカワさん?確かオイカワって魚いたよね」

へらっと笑っていうと、信じられないと顔に書いてガン見される。

「3年の及川さん!バレー部のキャプテン!」
「へぇー、、知らないなぁ」
「まあ、結衣ってそういうの興味無さそうだもんね」

遠まわしに女子というカテゴリーから私を除外するような発言をしてきた。彼女とは中学から一緒だから言う事にまったく遠慮というものを感じさせない。ひどいなぁと苦笑いを浮かべ、お腹空いたから早く教室戻ろう、と彼女たちを急かすと不満そうな顔をしながらも歩き出した。ふっとオイカワさんに目を遣るとこちらを凝視している。UFOでも見付けたのだろうか。そう言えば昨日TVでUFOの特集やってたなとか、能天気に考えながらオイカワさんの横を通り過ぎた。次の瞬間、右腕を掴まれて軽く引っ張られた。そして、私が振り返るよりもはやく上から声が降ってきた

「俺と付き合ってくれない?」

水を打ったように静まり返る廊下。振り返った先には私の腕を掴んでぽかんとしているオイカワさん。私の友達もオイカワさんの友達もなにがおこったかわからないというように目を見開いている。勿論、私もなにが起こったかわからない。

「……あの、オイカワさん?」

先程覚えた名前を口にすると、はっとした顔になり、次いで掴んでいた私の右腕を思いっきり引っ張って走り出した。良く分からないけどバレー部のひとは足が速い。転びそうになりながらなんとか引っ張られるがままに走る。後ろからはオイカワさんを呼ぶ男子の声と女子の悲鳴のようなもの。阿鼻叫喚だ、と呟いて目の前の大きな背中をひたすら追いかけた。

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