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□そばにいる限り
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※社会人、同棲設定です







「誕生日を祝う習慣っていつからあるんだろうね」
「...知らねぇ」
「あっそう」

純粋な疑問が湧き、スプーンを止めて目の前の男に尋ねるも、そいつは数秒考えるように目を泳がせた。けれど、彼の辞書からは何も見付からなかったらしく、スパっと切り捨てて、また黙々と好物のカレーを口に運ぶ。

「...飛雄」
「...」
「....美味しい?」
「......」
「そっか、よかった」

口いっぱいに含んでいたので返事はできなかったらしいけど、私が話しかけるとじっとこちらを見つめ、私の問いかけに大きく頷いてくれた。それだけで十分。一緒に暮らし始めた頃は今まで飛雄が食べてきた影山家のカレーを再現しようと奮闘したけれど、その努力は飛雄の

「お前の作ったカレーが俺の将来の家庭の味なんだから、わざわざ俺の実家の味に寄せなくてもいいじゃねぇか」

などという恥ずかしい一言で必要なくなった。あれは遠回しなプロポーズだったのか、それとも思った事をそのまま口に出しただけなのか分からずじまいだけど、この男の事だからきっと後者だろうな。

「恥ずかしい奴め」
「...あ?」
「何でもない」

何でもないわけないだろう、そんな風に物語る視線がグサグサと突き刺さるのを感じるけれど、それを避けるように下を向き、カレーを食べていると、やがて諦めたように視線がそらされた。

「昔っからあるんじゃねぇの」
「......ん?」
「さっきお前が言ってた誕生日を祝う習慣」

それ、だいぶ前に終わった話だよね。なんて野暮な事は言わないことにしている。飛雄の会話はいつもあちこちから飛んでくるし、主語がなかったりするから注意しなくてはいけない。

「なんでそう思うの?」
「俺は、誕生日祝ってもらえるのはうれしいし、誰からでもおめでとうって言われるのは嫌いじゃない。いつの時代でもそう思う奴はいたと思う」
「...ふーん。飛雄にしてはよく考えたね」
「俺にしてはって何だよ」
「そのままの意味。...でも飛雄は人の誕生日は割と覚えてるよね」
「............んぬん」

途端に固まってボソボソ喋りになり、明らかに挙動不審な様子。飛雄とは高校からの付き合いだけど、私は飛雄に誕生日を忘れられた事は一度もない。何かしら渡されたり、聞こえるか聞こえないかギリギリの声で、おめでとうを言われた。そういえば、いつぞやはカレーまんだったな。

「...飛雄、どうしたの?」
「...察しろよ」
「無理だって、言ってくれなきゃわかんないよ」
「.........」
「ん?」
「お前だから覚えてたんだ!ボケ!」
「...っは?」
「わかったか?わかったな!!」
「う、うん」
「......ったく」
「...顔真っ赤」
「うるせえ!」

そう言って、顔を隠すように俯きカレーをかきこむ。ここで可愛いとか言ったら怒るんだろうな。

「......結衣」
「ん?」
「誰に祝ってもらっても俺は嬉しい」
「うん」
「でも、誰よりもお前に祝ってもらえるのが一番嬉しい...と、思ってる」
「...恥ずかしい奴め」
「だから、さっきから何だよ」
「んーん。...飛雄」
「おう」
「誕生日おめでとう」
「!.....アリガトウゴザイマス」
「なんでカタコトなの」
「...るせぇ」

飛雄がカタコトの日本語を喋る時は大体照れている時。お礼を言うのやお願いごとをするのは苦手だと言っていたのを思い出す。

「ケーキ食べる?」
「食う。」
「じゃあ、出すね」

立ち上がって台所に向かう、はずだった。

「っ...とび...お」
「動くなよ」

突然立ち上がった飛雄に後ろから抱きしめられる。咄嗟に逃げようとするも、私の身体に回された腕に力が込められ阻止される。

「どうしたの?珍しい」
「...来年も...」
「ん?」
「再来年も、その次の年も、これからもずっと、お前に祝って欲しい」
「...それは.........プロポーズですか?」
「プロポーズはもっとちゃんとやる。これは.........プロポーズモドキだ」
「モドキ...」
「細かい事はいいんだよ、祝うか祝わねえかどっちだ」
「なんで半ギレなの」
「...」

早くしろと言わんばかりに更に強く抱きしめられる。こんな事、聞かなくても分かり切ってる事なのに。

「飛雄が」
「おう」
「私の前にいる限り、私はいつでもお祝いするよ」
「そうか」
「満足ですか?」
「ん」

一瞬腕が緩んだので、抜け出そうとするも、直ぐに力が込められて逃げるなと言わんばかりに抱き戻される。

「...結衣」
「はい」
「好きだ」
「私も...飛雄が好きだよ」



Happy birthday!! Tobio Kageyama
2016.12.22

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