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□雷嫌い 2
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「飲み物持ってくから、先俺の部屋行ってろ。2階の一番奥。」
「わかった。…物色していい?」
「…お前のは麺つゆにしてやろうか」
「スイマセン。大人しくしてます。」
「ったく」

階段を登って廊下を進み、言われたとおり一番奥の部屋にたどり着きドアを開ける。

「…うわぁ」
「おい、ぼさっとしてないでさっさと入れ。」

いつの間にか後ろにいた岩泉にどつかれてよろけながら中に入った。

「洋室なんだ、意外…」
「ちなみに俺の部屋にはどんなイメージ持ってたんだ?」
「え?そりゃ、取り敢えずとっ散らかってて、達筆で『漢』って書かれた紙が壁に貼ってあって、虫取り網とカブト虫が沢山いるイメージ」
「上等だ。表へ出ろ。」
「なんで怒るの!?」
「及川との差が半端ねぇだろ」
「まあそりゃ、岩泉だし」
「…麺つゆに変えてくるわ」
「ちょっ、ごめんって!ほら、勉強しよ?勉強!教えるからさ」

取り敢えず勢いで押し切って座る。お互い問題集を広げる。

「わかんないとこあったら言ってね」
「おー」

そんなこんなで、ひたすら解いて教えて、気付けば時計は6時をさしていた。始めてから既に2時間が経過していた。自宅デートとかでは無く、本当にただの勉強会だった。ちょっと進展はあるかなとか思ってたけど思いっきり裏切られた。と言うか、

「…岩泉って意外と集中力持つんだね。」
「まあな。ヤバイ点数取ると部活でペナルティあるし」
「…バレー馬鹿」
「褒め言葉だな」
「えー」

攻撃が空振りになり不満一杯に岩泉を睨め付けたその時、ザーっという音とバラバラと窓を叩く雨の音。

「あー、降ってきちゃったか。傘持ってないのに」
「一本ぐらい貸してやるよ」
「そりゃどーも」

と、いきなり辺りが暗くなる。

「うわっ」
「停電か?ちょっとブレーカーみてくるわ」
「えっ、」

私が何か言う前に岩泉はスマホを引っ掴んで出ていってしまった。足音が遠ざかる。暗い部屋には私一人。私は幽霊やお化け屋敷は怖くないのだが、怖いものは勿論ある。例えば、

ゴロゴロゴロゴロ…

「…っ」

雷とか。大丈夫だと自分に言い聞かせても音は聞こえるし、身体はどんどん強張る。暗い部屋に白い光が入り、次の音を予想して強く耳を塞ぐ。それでも、否応なしに音は聞こえてきて、床にうずくまったとき、部屋の明かりがついた。少し安心して、一息ついたのも束の間、激しい音が思考を支配し、また耳を塞ぎ、床にうずくまった。

コワイ

「…っ…い、わ…いず…み」

「吉田!おい!どうしたんだよ!」

背中に暖かい手が触れる。

「お前、雷駄目なのか?」

戸惑った声に小さく頷くと、背中に触れていた手が肩を掴み、身体を起こされる。そして、次の瞬間時に目の前にあったのは青城の制服のネクタイ。暖かい手がぎこちなく背中をなで、耳を塞いでいた右手にも暖かい手が重ねられる。

「…俺がいるから」

その小さな声を何故聞き取れたかは分からないが酷く安心してしまって、そのまま身を委ねた。


「お前、雷駄目なら最初から言っとけよ」

雨と雷は一時的なものだったみたいで、外は静か。

「だって、なにかいう前に岩泉が出てっちゃったんだもん!」
「それはっ…悪かった」

決まり悪そうに座りなおす岩泉がなんか可愛く見えてしまって思わず笑うと、案の定睨まれた。

「んだよ」
「別にー。あっ、そろそろ帰るね」
「…」
「…何?」
「送る。」
「え、いいよ別に」
「いいから、さっさとしろ」
「はーい」

鞄を持って立ち上がるとずいっと手が差し出された。何のことかわからずに鞄を差し出す

「ちげーよ、ボゲ!」

怒られた。首をかしげてると、岩泉は頭をガリガリと掻いた後、私の右手を掬った。あったかくて大きな手。思わず硬直すると、岩泉も顔を赤くしながら、今更照れてんじゃねーよと呟いた。でも、さっきと今では状況が違う。混乱してた時より、意識がはっきりしてる時の方が100倍恥ずかしい。それでも、堪えて手を握り返すと、岩泉の肩が小さく跳ねる。

「岩泉も可愛いとこあるんだね」
「…うっせーよ」

大っ嫌いな雷がこうやって二人の距離を縮めてくれたのは非常に不本意だけど、結果よければ全て良しだろう。
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