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□求めた温もりはすぐそばに
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秋も深まり、風の冷たい冬がもうそこまで迫っている。遅い時間になればなるほど冷え込み、外にいるのはやっぱり辛い。誕生日にもらったお気に入りの黒地に赤と白の線が入ったマフラーを引っ張って鼻まで覆う。

と、ばだばたと騒がしい足音と、ものすごい大声が耳を劈いた

「吉田ーーー!!!どこだぁーー!!」

やっぱり木兎だ。相変らず騒々しい。少しからかってやろうと柱の影に身を隠した。すぐに見つかるだろうと思っていたが、私の考えが甘かった。相手は天性の馬鹿なのだから。

「吉田?どこだよ…まさか、誘拐!!?おい!!どこにいるんだよぉ!」

なんて素晴らしい発想なのでしょう。このまま聞いていても面白いが、いい加減寒いので柱の影から顔を覗かせ手を伸ばして木兎のエナメルを思いっきり引っ張った。それに合わせて木兎が思いっきり仰け反る。

「うぉっ!!誘拐犯か!!?」
「だーれーが、誘拐犯だって?」
「吉田!お前何処いたんだよ!誘拐されたんじゃないかって心配したんだからな!」
「はいはい、ありがと。さっさと帰ろ、寒いし。」
「てきとーすぎんだろ!」

ぶつくさ言いながら私のあとを追っかけて隣に並ぶ。見上げると、拗ねたような顔が月に照らされ浮かび上がった。少しの優越感に浸って見つめているといきなりこっちに凄い勢いで顔を向けた。

「てか、お前寒いって言ったよな!結構待たせちまったか?」

先ほどの拗ねた表情から一変、心配するようにのぞき込んできた。

「今日は赤葦とのコンビがめっちゃ上手くいって、ついつい長い時間居残っちゃって。やっぱり寒かったよな?ごめんな」

そう言って、自分のマフラーをとって、私のマフラーの上からぐるぐる巻いてきた。つまり、今私はマフラーを二重につけているわけだ。暖かいが苦しい。が、木兎はそんな私を満足げに見下ろした後、ちょっと待っててとかなんとか言って、何処かに走っていってしまった。

少ししてからまた、ドタバタと大音量の足音で戻ってくる。そして、二つの缶を私の前に差し出した。おしることコーンスープ。あったか〜いやつだ。

「やるよ!どっちがいい?」
「えっ、んーじゃあこっち!」
「えっ……」

指さしたのは木兎の好きな甘いおしるこ。そっと顔を窺うと、明らかにがっかりしている。冗談だよと笑って左手にあったコーンスープを手にとった。

「ありがとね」
「おう!!」

目をキラキラさせちゃって子供みたい。こんな人もバレーをやってるときは別人みたくギラギラして、かっこよくなる。詐欺だと疑いたくなるレベルで。でも、

「…好きだなぁ」
「コーンスープか!?うまいよな!俺も好きだぜ!!」
「違うよ、バーカ」
「バッ…」

ショックを受けたような顔でそれでも、バカとはなんだと文句を付けてくる。

そういう風にすぐ熱くなったりするとことか、拗ねた時に方っぽの眉だけ器用に上がるとことか、実は甘い物が好きだとか、本当は肉が一番好きとか、バレーしてる時のギラギラした大きな目とか全部ひっくるめて

「木兎が好きってこと」

ニッと笑って言い放つと 木兎は しばし瞠目した後、後ろに輝く月よりも、今は見えない太陽よりも明るく豪快に笑った。そして、大声で

「俺も好き!!」

二重に巻いたマフラーや、手の中のコーンスープよりも、繋いだ貴方の手とその笑顔が、なによりも暖かかった

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