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□響くのは君だけ
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「国見君が好きです。付き合ってください」
顔を赤くし、俯いて声を絞り出した女子を静かに見下ろす。告白というものはされると当然嬉しいもののはずなのに、どんなに可愛い子でも胸がドキドキしたり、嬉しいという感情を抱くことはなかった。それをチームメートである金田一勇太郎に零したら地球外生命体でも見るような表情で俺を見てきた。
今回も何かが響くわけでも、心を揺り動かされるわけでもなく、いつの間にか固定された断り文句を口にし、女子にぶつけると踵を返して教室へと戻った。時計を確認すると昼休みはまだまだ残っている。午後の授業に備えて寝れる場所を探した。
「…ら、あーきーら!」
ぼんやりと目を開けると、高く登った太陽をスポットライトに俺の肩を揺する女子の姿。校内で俺のことを「英」と呼ぶのは一人だけだ。
「…聞こえてる。何の用だよ、吉田」
吉田結衣は、北川第一のころからバレー部のマネージャーをしていて、女子の中では多分一番仲がいい。会った時からまるで知り合いのように話しかけてきて、男友達からも滅多に呼ばれない「英」という呼び名で呼ばれた。
こういう態度は他の奴らにもきっと同じなのだろうと思っていたが、意外にも下の名前を呼び捨てにしているのは、男バレの1年と女友達だけだという。後者については理解できなくもないが、前者については、なぜ俺たちだけなのか、バレー部以外の男子はなぜ呼び捨てにしないのかと聞いたところ。
「だって、バレー部の人達は3年間クラスとかは違くても毎日顔をあわせるでしょ。それなのに苗字呼びとかなんか寂しいじゃん?」
と、当たり前のように返された。そんな遠慮のない吉田とは、こちらも遠慮なく接することができたし、それなりに楽しい時間を過ごすことができた。
「まーた告白断ったんだって?」
俺の隣に腰を下ろして呆れ顔で言った。
「いっつも断ってばっかでもったいないよ。…あ!もしかして好きな人でもいるの?」
「…は?」
“好きな人” 考えたこともなかった。それなのに、口をついて出た言葉は、あまりにも予想外で
「吉田…」
「ん?」
「吉田が好きだ」
しばしの沈黙。
「え?」
「え?」
「…英、あの…今何て?」
しまった。
『特にいないよ』
そう答えるはずだった口は予想外の答えを発射した。
「…ごめん。忘れて」
そういうのが精一杯。隣からはなにか言いたげな顔で無遠慮に視線をぶつけてくる。
「まー、いいけどね…」
そういって、軽く伸びをしながら立ち上がってこちらを見下ろす。そして、とんでもない爆弾を落とした。
「…私は、英のことが好きだよ」
「おう…………え?」
「じゃ、また部活でねー!」
何か言う前にスカートを翻し、こちらに軽く手を振って校舎にきえていった。
『好きだよ』
意味がわからない。あいつに言われた“好き”だけが頭の中を支配して思考が回らない。
「…言い逃げかよ」
顔が熱いのは、胸が苦しいのは、きっとあいつのせいだ。
思考をかき消すように鳴り響いた予鈴に顔をしかめ、重い腰をあげた。どんな顔をして放課後を過ごそうか考えながら