王者の日常

□手紙の宛先
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部員たちが準備体操を終え、ストレッチを始めた頃、体育館の扉が開く重たい音。合わせて響く牛島の鋭い声。

「集合っ!」

入ってきた監督とコーチを囲むようにして立ち、挨拶をすると、監督は私達をぐるりと見回し、眉を顰めた。

「覚はどうした」
「腹を壊したそうです」

右代表で答えた牛島に更に険しい顔になった監督は続けて「原因は?」と聞く。牛島が私を横目で見るので、全員の視線がこちらに集まった。居心地がわるいけど、答えない訳にはいかない。

「アイスの食べ過ぎだそうです」
「……」

ゆっくりと俯いた監督は明らかにキレている。部員たちの中でも俯いている人はいるけど、肩が小刻みに震えているため、怒っているのではないはず。しばらく怒りを抑える努力をし、なんとか成功したらしい監督は低い声で。

「……お前らも体調には気を付けろ。以上」
「気をつけ、礼!」
「お願いします!」

バタバタと走って行く部員たちの後ろ姿を見ながら、

「しばらくアイツは基礎練2倍だな」

と呟く監督を見て、もう覚にアイスを止めるように忠告しなくてはと思った。

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