王者の日常
□味方で敵
1ページ/1ページ
毎度の事ながら先生の話というものはグダグダと長くて飽き飽きする。
「ねえねえ」
膝を抱え直して溜息をつき、重くなった瞼を必死にこじ開ける。
「ねえ、遥華ちゃん」
何で椅子を出さないんだろう。
「聞いてる?」
「天童覚、うるさい」
「俺まだ何も言ってないよ!」
「顔と髪型がうるさい」
「理不尽!」
隣からひそひそと話しかけてきた通称ゲス・モンスターにヒソヒソで返す。
理不尽な物言いをしているけれど、話しかけてくれたお陰で目が覚めた、気がするから一応お礼をしようかな。
「さーとりくん」
「ん?」
私が話しかけた事が嬉しかったのだろうか、ご機嫌でこちらを見たがその表情は私を見てピシリと音を立てて固まった。遅れて体育館に響いた笑い声。先生達の視線が一斉に集まる。
察しの良い方は、もうお気づきだろう。覚以外の誰にも見られていない事を確認して繰り出した私の渾身の一撃、つまり変顔。後ろの人達はあらかた寝ていたから多分見えていない。
「やっばいよ!ねぇ、もう一回やって!」
改めて確信した、こいつは馬鹿だ。体育館中の視線を一身に受けているのに全く動じない。それどころか、大声で笑って喋っている。いい加減にしないと担任とか監督あたりが雷を…
『…3年2組、天童覚。後で職員室に来なさい』
ああ、もう遅かった。恐ろしい顔でアナウンスをしたのは彼の担任。固まった覚にあちらこちらから笑いが起こる。チラリと視線をやった先には鬼の形相の監督の姿。くわばらくわばら。
「ていうか、キミが元凶だよね!?」
「天童君…」
「ん?」
「貴方の事は忘れません。」
「ちよっと!」
「お説教と、ロードワーク二倍だね」
「ひぇぇ…」
「安心して、骨は拾ってあげる」
「てことは、骨になるまで放っておくんだね」
「…たしかに」
「納得しないでよ!」
ヒソヒソ声で攻撃してくる気の毒な覚の相手をしながら、次の集会でも仕掛けてやろうと心の中で呟いた。