START!

□2人の日常
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朝のシンとしたプールサイド。

少年が1人、自分の体に水をかけて水温にならす。
それは伸びしろが期待できる、まだ未成熟な体つきで。

スタート台に立ち、レーンの遙か遠くを見つめる。
少しの静寂の後、彼は水に飛び込んでいった。

水に馴染ませるように、滑り込むように。
ゆっくりとストロークを開始。
足の付け根から動かし水を蹴る。

水の感覚を全身で感じながら50mを泳ぎきり、壁に手をついて少年が顔を出す。
その表情はとてもさっぱりとしていた。

壁の時計に目をやると、もう少し泳げそうだ。
そしてまた水へ潜ろうとしたとき。

「終了」

ポコッと頭を軽くはたかれる音。
思わずさすりながら振り向くと、クールな瞳と目が合った。

「遅れるぞ、入学式」

片手にビート板を持ち、飛び込み台の近くにしゃがんでいたのは、親友の薄原 滉。

「……へーい」

泳ぎを阻止された少年、日永 朴は、うらめしそうに滉を見た後大人しくプールサイドに上がった。

***

「いってらっしゃい朴、滉」
「いってきます」
「まーす!」

ぺこりと頭を下げながら言う滉と、タオルを被ったまま元気に言う朴。

朴は小5の頃から通い出した岩鳶SCに朝早くから泳ぎに行き、滉がそれを迎えに行く。
橘コーチのほんわかした笑顔に見送られて登校するのが2人の朝のお約束だ。

今日は岩鳶高校の入学式らしい。
まだ少しだぶついている制服に身を包んだ2人を、真琴は微笑ましそうに見送った。

「懐かしいなぁ。あの制服」

自分たちの学年色は緑だったなぁ、と彼らの青いネクタイから思い出す。

そして高校時代の自分たちを。

「そういえば、怜も今日初就任だっけ」

それは後輩の1人の近況報告。
母校で水泳部の顧問を務めると、懐かしそうに、嬉しそうに語っていた。

「今度訪ねてみようかな」

頬杖をつきながら、真琴はほころぶ桜のように微笑んだ。

END


 

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