小手毬と青い春


□迷いと呪縛
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その日の部活。
フリー50mを5本、という言葉に、旭が緊張したように顔と肩を強ばらせた。

「旭、いける?」
「っ、はい!」

心配そうな尚先輩に返事をする姿を見て、尚先輩と同じような表情をしてしまう。

「タイムも測るからね、まずは遙から」

泳ぎ出したハルを見ながら、フォーム等にいつもと違うところが無いかノートに書き込んでいく。
旭の様子をそっと見てみると、圧倒されたようにハルの泳ぎを見つめていた。

「次、旭!」
「っは、はいっ!」

止まっていた時間が動き出したように旭がスタート台に向かう。
笛の音。
飛び込むも、すぐに異変は起きた。

前へ進めずに水の中でもがいているような動き。
息を切らして足をつき、旭はもどかしさといらだちをぶつける様に水面を拳で叩いた。

その姿に胸が、ズキリとした。


次は個人の専門で100mを5本。
尚先輩が取ったタイムを書き取っていく。

尚先輩が苦笑したほうを見ると、夏也先輩とハルが泳いでいた。
たちまち泳ぎきり、水から顔を上げてすぐにこちらへ顔を向ける。

「どっちの勝ちだ!」
「僅差で夏也」

尚先輩の判定に嬉しそうにガッツポーズをし、プールから上がる夏也先輩。
泳ぐのが楽しそうな表情だった……。

そのとき、真琴が泳いでいた。
水から顔を上げ、肩で荒く息を吐いている。
ゴーグルをつけたままでも苦しそうなのが分かった。

「真琴、10本以上泳いだんじゃない?」
「……1本、増やしました……」
「がむしゃらに泳いだって、練習にならないよ」
「……大丈夫です。少し休んだら、もう1本、いきます」

息が絶え絶えになりながら答える真琴。
個人のタイムは悪くないのに、無理をしているみたいだ。

「……真琴」

膝に手をつき、息を整えようと呼吸を繰り返す真琴の背中をさする。
手がぬれるのなんて気にならない。

「……ごめん……」
「平気だ」


***

「今からリレーの練習だ」

夏也先輩の言葉にハルと郁弥がそっぽを向き、旭と真琴が小さく返事をする。

尚先輩が指摘していることを書き込みながら皆の泳ぎを見る。
引き継ぎの瞬間を指摘されることが大半だ。
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