かにもかくにも撮るぜベイベ

□日々のルーティンから離れてみよう
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キジトラくんを抱き上げて膝に乗せ、4本指で顎の下を撫でると、キジトラくんは気持ちよさそうに目をつぶって、グルグルと喉を鳴らした。

「お、君キリッとしててかっこいいね」

「自分の方がイケてるっす」

「十四お前、なに猫と張り合ってんだよ」

「あはは」

ざりざりした舌で指をなめられながら、2人のやり取りを見守る。そうしているうちに、気が変わったのか、キジトラくんがぴょこんと膝から降りてどこかに行ってしまった。

「あ、行っちゃったっすね」

「猫にも行くとこがあんだろ。っし、そろそろ休憩終わりにすんぞ!十四はこれ片付けてこい!」

「え!?何でっすか!空却さんが持ってきたんだから、空却さんが片付けるんじゃないっすか!?」

「これも修行の1つなんだよ!お前は棗より、うちの間取り覚えてんだろ!」

「修行って言えば通用すると思ってないっすか!?もー、人使いが荒いなぁ……」

ぷぅと頬を膨らませながら、十四くんがお皿と3つの湯のみをお盆に乗せて、ぱたぱたと部屋を出ていく。それを見送ってから、空却くんが私に話しかけてきた。

「お前、人を見る目あんのな」

「?ありがとう?」

「ぶはっ、何で不思議そうなんだよ」

「いや、いきなり言われたからびっくりして。うん、今まで色んな人と接してきたし、人間性の高さは見極められると思うよ」

「なるほどなぁ。だからか」

「何で、人を見る目があるって思ったの?」

「お前が、十四の深いところにある不退転の心に気づいたからだよ」

「不退転の心?」

空却くんの説明によると、それは、"信念を持ち、絶対に屈したり諦めたりしない"という意味を持つ言葉なのだそうだ。仏教用語を出してくるあたり、お寺育ちの空却くんらしい。

さっき感心したような顔をしてたのは、このことを考えてたからか。

「打たれ弱ぇが、心は折れねえ。あいつのそんな気概を拙僧は気に入ってんだ」

「本人に言った方が良くない?十四くん喜ぶと思うよ?」

「バーカ、初対面の時に言ったわ」

「初対面で、十四くんの根っこの部分を見抜いた空却くんも充分すごいよね」

「拙僧は人を導く僧侶になる男だからな!人を見通すのなんざ、いと(やす)しだ」

そう言う空却くんの顔は、普段はやんちゃな小学生男子みたいなのに、荒行を成功させた人らしい精悍さと、達観したような雰囲気があった。自分より歳下の男の子に対して、純粋にすごいなという感想を抱いてしまう。

この大人びた感じは、何だか一郎くんを思い出すなぁ。

アニメ好きな友達の顔を思い浮かべながら話をしていた時、十四くんが帰ってきたので、私たちはもう1回座禅を組むことにした。

私がシブヤに帰るまで、あと2日。
十四くんは、空却くんに1度も叩かれずに、座禅を終えられるようになるだろうか。

END


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