かにもかくにも撮るぜベイベ

□もふもふ、しましょ
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萬屋ヤマダでペットを預かる依頼を受けることもあり、犬用のベッドやトイレ等は問題なく用意できた。
ケージをあえて出さなかったのは、無くても大丈夫だろうという安心と、本来は人間である棗への配慮だ。

することが無くて困っているのか、ぽてぽてと効果音がしそうな足取りで、棗がリビングを歩き回る。

「棗さん、一緒にアニメ見ねぇ?」

ちょうど録画していたアニメを見ようとしていた二郎は、ソファに腰を下ろし、隣のスペースを軽く叩いた。

「わん」と鳴いた棗はソファに近づき、前足をソファに乗せてよじ登ろうとするも、なかなか上がれない。

懸命なその姿にキュンとしつつ、見かねた二郎は小さな体を抱き上げてソファに乗せる。
すると棗は、「ありがとう」と言うように、もふもふの体を嬉しそうに擦り付けてきた。

二郎はうっかり変な声を出しかけたが、何とかそれを喉の奥に戻し、リモコンのボタンを押してテレビをつけた。

***

ご飯の後のシャワーをするのは、三郎が担当することになった。

水量を調節し、温かいお湯をさわさわとかけると、棗は気持ちよさそうに目をつぶる。

「わんちゃんを飼ったら、こんな感じなのかな」

ふわふわだった毛が濡れて、ぺったりと全身に張り付き、しぼんだような棗の姿にクスッと笑いながら三郎は呟いた。

それにしても、棗は随分と大人しい。
犬の感覚だったら、ブルブルと体を振って水気を振り払うものなのに。

1つ思い当たることがあり、三郎は犬用のバスタブに入っている棗に声をかけた。

「棗さん。僕、濡れても平気な格好なので、ブルブルしても大丈夫ですよ」

すると棗は、「え、いいの?じゃあ遠慮なく」というような目で見上げた後、ブンブンと素早く体を振って水滴を飛ばした。

こんな姿になっても他人のことを思うのか。
この人の優しさは、一体どこから来るんだろう。

顔についた水を拭いながら、三郎はぼんやりそんなことを考えていた。

「わんちゃんは確か4秒くらいで、体についた水分の70%を振り払うことが出来るそうですよ」

タオルで残りの水分を取り、ドライヤーの温風でもふもふを取り戻しながら教えると、棗は軽く頭を上下に揺らす。それはまるで、相槌を打っているようだった。

***

見た目は可愛い小犬でも、中身はちゃんとした大人らしく、棗は犬用ベッドで丸くなる。どうやら1人で寝る気満々のようだ。

「ベッドに潜り込んでくれるシチュ、ちょっと期待してたんだけどなー……、なんて」

一郎は苦笑しながら、棗の上にタオルケットをそっとかける。もし彼女が元の姿に戻った時、すぐ体を隠せるようにするためだった。

棗が元々着ていた服も近くに置き、一郎はうとうとし始めた棗の頭をまた撫でる。

「早く戻ってくださいね。これはこれで可愛いっスけど、やっぱり人間の棗さんが1番っスから」

独り言のように呟いて、一郎は部屋を出た。
リビングに残された棗は、顔を赤らめる代わりに、前足で顔を覆った。

END

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