かにもかくにも撮るぜベイベ
□あの子どんな子どんな色
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「んむぅ」
鼻と唇の間に鉛筆を挟み、何やら考え込んでいた乱数は、回転椅子をくるりと回してこう言った。
「ね〜ぇ〜、げんたろぉ〜だいすぅ〜。あのオネーさんってどんな色が似合うと思う〜?」
「はて。乱数が言う"オネーさん"とやらは、この世に散らばる物語のように数が多すぎて、小生にはとんと見当がつきませんね」
「乱数が言うオネーさんって、俺が知らない奴とほぼ同じ意味だぞ」
「もー、ちゃんと2人とも知ってるオネーさんだよ!この前ハチ公前とか公園とかで、おもしろ写真一緒に撮ったじゃん!」
「あぁ、棗のことですか」
サイケデリックと言っても過言ではないほどに、色鮮やかな乱数の事務所。
幻太郎と帝統は、今日も乱数に呼ばれて、そこに遊びに来ていた。
「あのオネーさんに着てほしい服を考えてたんだけど、色が白しか浮かばなくてさー。2人のイメージを教えてほしいなーって思って!」
「それなら白でよくね?決まってんだろ?」
「僕はもっとパーッとカラフルで、ハッピーになれる服を作りたいのー!白1色ならウェディングドレスのときに取っときたいー!」
「あなた、棗の花嫁衣装を作る予定なんてあったんですか」
読んでいた小説を傍らに置きながら、幻太郎が意外そうに目を丸くする。
帝統は競馬新聞から顔を上げ、棗に思いを馳せるように宙を見つめた。
「そうですねえ……。小生の主観ですが、寒色より暖色の方が彼女に合うと思いますよ。杏色なんか如何でしょうか。黄檗色よりは幼過ぎない印象になるでしょうし」
「幻太郎のボキャブラリーすごーい!さすがシブヤの大作家!ヒュウー!」
「あなた聞き流してないでしょうね?珍しく小生が親身になって考えたというのに」
「だいじょびだいじょび!ちゃあんとメモったよん♪帝統は何色だと思う?」
「うーん、俺は緑だな。公園の芝生みてえな、目に優しいやつ」
「じゃあグラスグリーンとか、スプリンググリーンとかかな!ミントグリーンもいいかも!2人ともありがとー!」
「緑ってそんなに種類あんのかよ」
「というか、乱数が配色に悩むなんて珍しいですね……」
「ねー!僕も自分でビックリしちゃった!」
「つーか本人に好きな色聞いた方が良くね?」
そう言いながら、帝統はちょうど持っていたスマホの通話ボタンを押す。
着信音が少し鳴ってから、スピーカー越しに棗の声が聞こえた。
『帝統?どしたの?』
「あー棗?お前さ、何色好き?」
『唐突だなぁ。空色』
「空色だってよー」
「リョーかいっ。それもメモしとくね!帝統ナイス!あっ今ライム刻んじゃった☆」
『おーい何の話ー?』
「乱数がお前にふモゴモゴ」
「なんでもないよーん!まったねーオネーさん!今度会ったら遊ぼうねーっ♪」
『?はーい』
帝統の口を比較的小さな手で塞ぎ、スマホをスイっと取り上げて、乱数は通話を終える。
「も〜!帝統のおバカ!先にバラしちゃったら意味ないじゃん!」
「そういうことか、わりぃわりぃ」
「これ、もう少しスカートの丈が長い方が良いのでは?」
「幻太郎はちゃっかりスケブを覗かないの〜!勝手に見るなんてメッだよ!」
END