かにもかくにも撮るぜベイベ
□撮影のご依頼ですか?(後編)
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オオサカチームの人たちと連絡先を交換してから、1人でスタジオに戻る。
美味しいたこ焼きでお腹をしっかり満たしたから、午後も元気に仕事できるぞ!
こら今チョロいって言ったの誰だ。
そういえば、ナゴヤチームはどんな人たちなのかな。
中王区から前もって、名前とか職業とかの簡単な情報を教えてもらってるけど、直接会う方がいろいろ分かりやすいもんなー。
***
「我は月光と漆黒のヴォーカリスト、四十物 十四!さあ、薔薇でさえ恥じらうほど比類なく整った我の美貌を、悠久の時の中に残すがいい!悪魔の鏡の介入は許さぬぞ!」
「なんて?」
めちゃくちゃキャラ濃い人が待ってました。
目の前にいるのは、一郎くん並に背が高い男の子。長い黒髪に入った金色メッシュは、夜の闇に浮かぶ三日月みたいだ。
西洋の貴族みたいなコートも、額に指先を当てたポーズも、メイクをした華やかな顔も人目を引いている。
というか、今この子何て言ったの?
でも、せっかく向こうから自己紹介(名乗ってくれたから多分そう)してくれたのに、このまま黙ってるのは失礼だ。
えぇい、脳みそをフル回転させろ私!今まで読書で蓄えてきた知識を全部引き出せ!そういえば、二郎くんがおすすめしてくれたアニメに、こんな喋り方のキャラがいたような……。
「えーと、初めまして。月見里 棗です。心配しなくても手ブレ無しで撮るよ。四十物くんのイケメン顔をぼやけさせる訳にはいかないもん」
"悠久の時"は、途方もなく長い年月のこと。
その中に残すってことは、今の四十物くんを形にする、つまり写真に残すこと。
"悪魔の鏡"は言葉通りに取ると、アンデルセン童話の『雪の女王』に出てくる、映るものを歪ませるアイテム。歪む=手ブレって解釈したけど、合ってるかな?
「イケメン……。ふっ、……そうであろう、そうであろう」
あ、合ってたっぽい。
「何顔赤くしてんだ十四。いい加減普通の喋り方に戻れ」
「あたっ」
モノクロのライダースジャケットとリーゼントが特徴的な天国さんが、四十物くんの頭をぺしんと引っぱたく。デジャブだ。
「お前、よく今の聞いて返事できたな」
「頑張ったからね、脳内翻訳」
あ、目線近い人と会うの久しぶりかも。
ツンツン立った赤髪と紅が入った目元、スカジャンと修行服という一風変わった格好の波羅夷くんを見て、そう思う。あとピアス多いな。
「さて、1番手の波羅夷くんから撮ろっか」
「うげ。その呼び方やめろ。苗字に君付けとか気持ちわりぃ。空却でいい」
「じゃあ空却くんで」
「おう」
後頭部をがしがし掻きながら、こそばゆそうな顔で異議を唱えられたので、名前呼びに変えてからカメラを構える。
仁王像みたいにどっしりした立ち姿と、自信あふれる不敵な笑みで、背の低さをものともしない気迫を感じる1枚になった。
「次は四十物く、」
「あ、あのっ!自分のことも名前で呼んでくださいっ!あと、こいつも一緒に撮ってもらえませんか!?」
「十四くん、近い近い。私の顔にぬいぐるみが当たっちゃってる」
「わぁ!すみません!」
十四くんが少し離れてくれたおかげで、ぽふっと顔にぶつかったぬいぐるみの全貌が明らかになる。
「アマンダっていって、自分の大事な友達なんです」
それはブタのぬいぐるみだった。
カバンに入れやすそうな大きさで、白っぽいボタンの目がこちらを見つめている。
ピエロのようなデザインが斬新で面白い。使い込まれたような色味や、少しくたびれたような布の質感が、一緒にいる時間の長さを物語ってるように見えた。
「へぇ。素敵な名前だね」
アマンダって、確か"愛すべき者"とか"大切なもの"って意味だったはず。凝った名前つけたなぁ。
「でも大事な友達なら、あんまり人に見せびらかさないほうがいいんじゃない?」
「そうなんすか?」
「私の主観だけどね。それにしても、名前つけて持ち歩くくらい可愛がってるんだね。そういうの、素敵だと思うよ」
物を大事にする人って良いよね。
アマンダの頭を撫でながらニコッと笑うと、十四くんはぽーっと頬を赤くしていた。
「後で宣材写真とは別に、十四くんとアマンダのツーショットを撮ってもいいかな?」
「は……、はいっ!お願いします!」
「いい返事だねー。それじゃあ撮るよー」
カメラの隣に椅子を置いて、そこにアマンダを座らせる。
十四くんはヴィジュアル系バンドっぽく、ビシッとカッコ良く決めたポーズと表情をしてくれた。
さっきまでの大型犬みたいな人懐こさは、どこに飛んで行ったのかと思ったくらいだ。
「完璧に十四に懐かれたな、あんた」
「ヒャハッ、今まで何人たらし込んできたんだよ」
「人聞き悪いな空却くん!?人をたらし込んだことなんて1度も無いよ!」
「あれで天然かよ……。末恐ろしいな」
「天国さんまで!?」