かにもかくにも撮るぜベイベ
□ラークスパーの遺品
3ページ/4ページ
ある日理鶯さんから連絡が来て、ヨコハマのカフェで待ち合わせをした。
「理鶯さんが里に下りている……」と自分でも謎の感動を呟くと、「小官はたまに街に出ているが」と真顔で返された。
「お話って何ですか?」
「小鳥遊 飛燕という男を知っているか?」
理鶯さんはコーヒー、私はオレンジジュースとベイクドチーズケーキを注文した後、兄と慕っていた従兄の名前を言われて驚いた。
何で理鶯さんが知ってるんだ。
そういえば理鶯さん元海軍で軍曹さんだった。
「はい。理鶯さんは、お兄ちゃんのお友達だったんですか?」
「ああ。戦友だった」
家族と言えど民間人の私たちには、お兄ちゃんがどんな生活をしているか、何をしているか、一切教えてもらえなかった。
『元気です』
『仲間が出来た』
『特に仲良い奴が作るご飯が美味い』
『いつか棗にも紹介したいな』
たまに、そんなメールが来るくらい。
だからだろうか。
それなりに覚悟をしていたつもりでも、お兄ちゃんがカルシウムを含んだ白い物体になって、家に帰ってきたことがショックだった。
「これを、飛燕から預かっていた」
理鶯さんが、迷彩服の胸ポケットから何かを取り出す。
大きな手のひらに乗ったそれは、細い銀色の鎖に、温かみのある色合いのサンストーンがついたペンダントだった。
お兄ちゃんの両親の形見で、お兄ちゃんが家に来た時から持っていたお守りだ。
「お兄ちゃんの宝物……」
「これは棗が持つべき物だ。"妹に手渡してくれ"と、飛燕が言っていた」
そんなに壊れやすい物じゃないと分かってるのに、受け取る時に手が震えた。
落とさないようにペンダントを両手で包み込み、祈るようにその手を額に当てる。
「……お兄ちゃん……」
じわりと目頭が熱くなり、涙が少し零れた。
理鶯さんは何も言わずに、私の頭を、お兄ちゃんがしてくれたみたいに優しく撫でた。
***
「……飛燕は、小官たちを会わせたかったのかもしれないな」
運ばれてきたコーヒーを飲みながら、理鶯さんが言う。
私はちょうどフォークで切り分けたチーズケーキを口に入れたところだったので、濃厚な美味しさを堪能してから飲み込んだ。
「そうかもしれません。お兄ちゃん、人と人の繋がりを広げていくタイプだったので」
「飛燕は誰とでも親しくなれた。そういう所が棗とよく似ている」
「へー。そっちでお兄ちゃんは、どんな感じで過ごしてましたか?」
「仲間と酒を飲む時、専ら盛り上げる役だった。あいつの周りは笑顔が絶えなかった」
「相変わらずムードメーカーだったんですね。お兄ちゃんらしいな」
仲間を庇って戦って、"名誉の死"を遂げたお兄ちゃん。
それ以外の話を理鶯さんから聞くことができて、何だか心が少し軽くなった気がする。
首にかけたサンストーンが、きらりと煌めいたように思えて、私はそれにそっとふれた。
END
ラークスパー(飛燕草)
花言葉:『自由』『正義』