かにもかくにも撮るぜベイベ

□ラークスパーの遺品
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ある日理鶯さんから連絡が来て、ヨコハマのカフェで待ち合わせをした。
「理鶯さんが里に下りている……」と自分でも謎の感動を呟くと、「小官はたまに街に出ているが」と真顔で返された。

「お話って何ですか?」

「小鳥遊 飛燕という男を知っているか?」

理鶯さんはコーヒー、私はオレンジジュースとベイクドチーズケーキを注文した後、兄と慕っていた従兄の名前を言われて驚いた。

何で理鶯さんが知ってるんだ。
そういえば理鶯さん元海軍で軍曹さんだった。

「はい。理鶯さんは、お兄ちゃんのお友達だったんですか?」

「ああ。戦友だった」

家族と言えど民間人の私たちには、お兄ちゃんがどんな生活をしているか、何をしているか、一切教えてもらえなかった。

『元気です』
『仲間が出来た』
『特に仲良い奴が作るご飯が美味い』
『いつか棗にも紹介したいな』

たまに、そんなメールが来るくらい。

だからだろうか。
それなりに覚悟をしていたつもりでも、お兄ちゃんがカルシウムを含んだ白い物体になって、家に帰ってきたことがショックだった。

「これを、飛燕から預かっていた」

理鶯さんが、迷彩服の胸ポケットから何かを取り出す。
大きな手のひらに乗ったそれは、細い銀色の鎖に、温かみのある色合いのサンストーンがついたペンダントだった。

お兄ちゃんの両親の形見で、お兄ちゃんが家に来た時から持っていたお守りだ。

「お兄ちゃんの宝物……」

「これは棗が持つべき物だ。"妹に手渡してくれ"と、飛燕が言っていた」

そんなに壊れやすい物じゃないと分かってるのに、受け取る時に手が震えた。
落とさないようにペンダントを両手で包み込み、祈るようにその手を額に当てる。


「……お兄ちゃん……」


じわりと目頭が熱くなり、涙が少し零れた。

理鶯さんは何も言わずに、私の頭を、お兄ちゃんがしてくれたみたいに優しく撫でた。

***

「……飛燕は、小官たちを会わせたかったのかもしれないな」

運ばれてきたコーヒーを飲みながら、理鶯さんが言う。
私はちょうどフォークで切り分けたチーズケーキを口に入れたところだったので、濃厚な美味しさを堪能してから飲み込んだ。

「そうかもしれません。お兄ちゃん、人と人の繋がりを広げていくタイプだったので」

「飛燕は誰とでも親しくなれた。そういう所が棗とよく似ている」

「へー。そっちでお兄ちゃんは、どんな感じで過ごしてましたか?」

「仲間と酒を飲む時、(もっぱ)ら盛り上げる役だった。あいつの周りは笑顔が絶えなかった」

「相変わらずムードメーカーだったんですね。お兄ちゃんらしいな」

仲間を庇って戦って、"名誉の死"を遂げたお兄ちゃん。
それ以外の話を理鶯さんから聞くことができて、何だか心が少し軽くなった気がする。

首にかけたサンストーンが、きらりと煌めいたように思えて、私はそれにそっとふれた。


END


ラークスパー(飛燕草)
花言葉:『自由』『正義』
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