かにもかくにも撮るぜベイベ

□撮影のご依頼ですか?(前編)
2ページ/2ページ






天谷奴さんに逃げられないように、彼の左腕をしっかり掴んでグイグイ歩いていくと、からかうような口調で話しかけられた。

「自分から腕を組むとは、ずいぶん積極的だな。嬢ちゃん」

「もう成人済みなので、嬢ちゃんって歳じゃないです」

「俺から見りゃ、22歳なんてまだまだ嬢ちゃんだぜ?」

ひ、人の年齢を1発で当てただと……?
ちらりと天谷奴さんを見上げる。口端が面白がるようにつり上がってるけど、サングラスで目が隠れてる。表情が何だか掴みにくい。

人を食ったような顔ってこんな感じかな……。

***

「それでは、気を取り直して撮影始めまーす。まずは白膠木さんからで」

「あちゃー。ポーズどないしょう。決めてへんかった」

「と言いつつノリノリですね」

白膠木さんは腰を少しかがめ、扇子で頭をぽんと叩いたお茶目なポーズを取ってくれた。

「あ……う……」

「躑躅森さん、カメラだけ見ててください。すぐ終わらせますから。リラックスー」

「は、はいぃ……」

結構いるスタッフさんたちに緊張してしまっているのか、真っ赤になって固まっている躑躅森さんに、優しく声をかける。

教師らしさをアピールするために、黒い表紙の帳面を持ってもらい、何とか理知的な1枚に仕上げることができた。

「天谷奴さん、目線こっちお願いしまーす」

「はいよ」

寂雷先生の撮影の時みたいに風を送り、毛皮のコートを揺らめかせて動きを出す。
帽子に片手を当て、ポケットに片手を入れたポーズなのに、なぜかラスボスっぽい。



でもまぁ無事に撮影を終えることができたので、私たちは今、スタジオ近くのたこ焼き屋さんに来ていた。

「おいし〜〜〜オオサカ来て良かった〜〜」

「そうやろ?美味いやろ?ぎょうさん食べてなー」

「何でお前が自慢げやねん。気持ちは分かるけど」

躑躅森さんのツッコミはキレがあって、2人がどんなに気の置けない仲なのかが伝わってくる。確か、元相方なんだっけ。

いや〜それにしても、オオサカのたこ焼きめちゃくちゃ美味しい〜。さすが本場。生地がふわふわトロトロで、出汁がきいてて、入ってるタコは大きめで、食べ応えがある。

私はソースとマヨネーズ派だったけど、白膠木さんオススメのおろしポン酢もさっぱりしてて良き。新しい世界の扉を開いた気分だ。

「嬢ちゃんは猫舌なのか」

「バレました?」

「そんだけたこ焼きに息吹きかけてればな」

出来たてアツアツを頂いているので、舌や口の中を火傷しないように、念入りに冷ます。

すると天谷奴さんが、「美味そうに食ってるから」というよく分からない理由で、たこ焼きを1つ分けてくれた。餅チーズ味もなかなか美味。

あぁ、午後も頑張れそうだ。

「口の周りに食べかす付いとるで。俺のティッシュで良ければ、つこて」

「わ、ありがとうございます躑躅森さん」

「あ。俺がご馳走したるから、財布は出さんでかまへんよ」

「えっ、そんなの白膠木さんに悪いです!自分が食べた分くらい出させてください!」

「それなら、次会うた時にクリームソーダでもご馳走してもらえへん?後で連絡先、交換しよな」

「了解しました。美味しいお店を調べておきます!」

「んー素直でよろしい!飴ちゃんあげようなー」

***

その後のオオサカメンバー。

「何と言うか……ええ意味で子どもみたいな子やったな。邪気があれへん……」

「ほんまそれな〜。零と並べたら天と地くらい差があんで。"天"谷奴だけに」

「おいおい、人の名前をシャレに使うんじゃねえよ」

END


前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ