かにもかくにも撮るぜベイベ
□撮影のご依頼ですか?(前編)
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某日、私は新幹線に3時間くらい乗って、オオサカにやって来た。
中王区からのお知らせによると、こっそり新ディビジョンを作っているらしく、お披露目の前に宣材写真が欲しいとのこと。
今日は事前に予約しておいたビジネスホテルに泊まって、翌日に撮影の予定。
指定されたフォトスタジオは、オオサカとナゴヤの中間辺りにあった。
***
「……で、何で誰も来てないんですか!?」
あ、この言い方だと語弊があるね。
スタッフさんは来てるよ。でも肝心のチームさんがまだ来てないんだよ。撮影開始3分前なんだけど。
おかしいな撮影は今日だよね?スケジュール帳確認したけど、今日の日付に丸してあるし"撮影日"って書いてるよね!?
「午前はオオサカ、午後はナゴヤのチーム撮影なんだけどな……。大丈夫かな……」
腕時計や壁にかかった時計を、ついチラチラ見ながら呟いたときだった。
突然ジャズっぽいオシャレな音楽が、ドアの方から流れ始めた。
フォトスタジオが『すべ○ない話』の会場になったのかと、一瞬思った。
「はいどうも〜!白膠木簓です〜!」
パンパンパンと手を打ち鳴らしながら、類を見ない千鳥柄スーツの彼がフォトスタジオに入室。
それと同時に始まるピン芸人コント。
掴みは完璧。
テンポのいいトークで、笑いのツボをことごとく押される一同。
「なんでやねん!もうええわ!どうも、ありがとうございました〜」
「えー続きまして宣材写真撮影のお時間ですー!帰らないでくださーい!」
何事も無かったかのように彼がくるりとUターンしたので、私は急いでその腕にしがみつく。
撮影時間ちょい過ぎてるから逃がしませんよ。
「躑躅森さんも!ドアのとこでスマホ構えてないで来てください!」
そわそわした様子の躑躅森さんが、ドアの影からひょっこり顔を覗かせていたので、そちらにも声をかける。
もしかしてBGM流してたのこの人か?
「君が今日撮影してくれる月見里 棗ちゃんやっけ?気持ちの切り替え早いなぁ。さっきまでわろてくれとったのに」
「仕事なので!ところで、天谷奴さんはどちらにいるんですか?」
「それがなぁ、零が『ちょい遅れるわ』って連絡よこしてな?ほな、それまで俺が漫才を披露しよか思てん」
「え。それはすごく見たいんですけど、スケジュールが〜……」
「ほんまそれな!まぁ時間が守れん奴にろくな奴はおらへんからな〜。あの人、1時間くらい遅れて来たこともあるんやで?」
「いっ、1時間!?」
世の中にはそんな人もいるんだ!?というか、そこまで遅刻されたらナゴヤチームの撮影に確実に影響出ちゃうじゃん!めっちゃ困る!
「お、お二方、天谷奴さんと連絡って取れます?」
「それが……。さっきから電話かけてるんやけど、全然繋がらへん……」
「ジーザス」
「ディアマンテ?」
「それじゃ婦人服婦人雑貨製造販売の会社になっちゃいますよ!?よく知ってましたね白膠木さん!」
「お!君ツッコミも早いやんけ!ええなー。よう見たらお目目が栗みたいにクリッとしてて可愛いなぁ〜。撮影終わったら、俺と一緒にたこ焼き食べに行かへん?近くに美味い店があんねん!あたっ」
「おもんないダジャレ付きで口説いたらアカンで。困らせるやろ」
スマホで電話をかけていた躑躅森さんが、白膠木さんの碧色の頭をぺしんと引っぱたく。
白膠木さんは「なんやて。おもろいやろ」と口をひょっとこのように尖らせた。
「本場のたこ焼き……!行きます!」
「棗ちゃんノリええな〜!オオサカの味を簓さんが教えたる!」
「アカン。この子食べ物で一本釣りされてしもた」
オオサカといえばやっぱたこ焼きだよね!こっちに来てから、ずっと食べてみたかったんだよな〜。そうと決まれば、天谷奴さんには早く集まってもらわないと……!
「私、ちょっとロビー見てきます!」
お2人とスタッフさんたちに声をかけて、私は部屋を出て、小走りでロビーに向かった。
すぐそこまで来てないかな〜と、淡い期待を持ちながら。
「お、そこの綺麗なお姉ちゃん。この後一緒に飯でも行かねえか?」
いたーーーーーー!
濃い色のサングラスに、高そうな黒いファーコート。真っ当な勤め人というより、裏稼業の人間ですというほうがしっくりくるその風貌。それに加えて190cmくらいの高身長だから、まあ目立つ目立つ。
「とりあえずこれ、俺の番号な」
「はいはいはいstopstopstop!何こんな所で油売ってるんですか天谷奴さん!撮影始めますから行きますよ!すみません失礼します!」
絡まれていた受付のお姉さんにぺこりと頭を下げると、お姉さんは面倒事から解放されたような顔で会釈をしてくれた。