かにもかくにも撮るぜベイベ
□仕事の話は本当です
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とりあえず私が鍵と引き戸を開けると、案の定地面に膝と手をついて、顔を上げてる帝統がいた。
「ところで何で棗が幻太郎んちにいるんだ?」
「帝統には紹介がまだでしたね。この方は小生が今日から雇った家政婦さんで、棗と生き別れていた双子のお姉さんです。名前は三田、」
「ダウト」
「速攻でバラさないでください」
「そっちこそ、何本人の前で嘘の設定盛り込もうとしてんですか」
「で、結局何で棗が幻太郎のとこにいんだよ?」
「説明しよう。それは私が家政婦のバイトをしてるからだよ。帝統こそ、今日はどうしたの?また1文無し?」
「一言いらねえけど、よくぞ聞いてくれた!昼メシ食いに行こうぜ!」
「待って私今月ちょっとピンチ」
「小生も自分以外に奢るお金は無いです」
「お前ら俺のこと何だと思ってんだよ!?」
「変人ギャンブラーですかね」
「自由気ままな野良にゃんこ、もしくはH歴のハックルベリー・フィン」
毛を逆立てるにゃんこみたいな帝統に2人で口を揃えて答えると、帝統はシワひとつない綺麗なお札を数枚突きつけてくる。「どうだ見たか」と言うような、かなり誇らしげな顔だ。
「心配しなくても俺が奢ってやるよ!」
***
「小生、昨日イタリアンを食したんですが」
「私ミートソースパスタで」
「無視ですか?嘘だからいいですけど」
「それ1番安いやつじゃねーか。もっと高ぇもの頼んでいいんだぜ?俺カルボナーラにするわ」
「これが食べたいからいーの」
「あ、ピザ3人で分けよーぜ!マルゲリータでいいか?」
「異議なし!幻太郎さんは何食べますか?」
「では某はキノコの和風パスタにします」
「幻太郎さん歪みなーい」
私の目の前に座る帝統が、メニューを見やすいように広げてくれる。
お昼時に私たちが訪れたのは、最近流行ってるらしいイタリアンレストランだった。
注文した料理を待つ間、私の隣にちょこんと座っている幻太郎さんが話しかけてきた。
「そういえば貴女、料理の写真を撮ることはあるんですか?」
「ありますよ。料理本の写真担当とか」
「ほほう。では本の表紙も何度か撮影したことがあるんでしょうか」
「そうですねー。今まで数冊担当しました」
「成程。ふむふむ。それを聞いて心が決まりました。貴女に頼みたい仕事があります」
「夕飯の買い出しですか?」
「お前今から昼メシ食うのにもう夕飯のこと考えてんのかよ。俺、唐揚げ久々に食いてえ」
「帝統、貴方人のこと言えませんよ。何当然のように夕餉のリクエストしてるんですか。というか小生がお願いしたい仕事は家政婦のようなことでは無くてですね」
仕事と聞いて家政婦のバイトを思い出したけど、幻太郎さんが頼みたいこととはズレていたらしい。幻太郎さんが額に手を当てて、ため息を軽くつく。
そして顔を上げて私の方へ向き直り、珍しく真面目そうな目ではっきりと告げた。
「単刀直入に言います。俺の小説の表紙に、貴女が撮った写真を使わせていただけませんか?」
「……いつもの嘘ですね!」
「いえ、これは嘘では無いです。そんな"騙されんぞ"と言うような顔で言わないでください。心の柔らかな部分が傷つきます」
「お前いつも嘘つくから信じてもらえなくなってんぞ」
「帝統ちょっと黙っててください」
「え、あの、本当だとして、何で私が撮った写真を使いたいと思ってくれたんですか」
不思議に思う感情が湧いてきて、幻太郎さんにそう聞いてみると、彼は着物の袖で口元を隠しつつ答えてくれた。
「……貴女が撮ると、普段当たり前のように目にしている世界が、美しく写って見えるんです」
「め、珍しく幻太郎さんが素直だと……?」
「正直に伝えないと仕事に支障が出ることは、さっき身をもって知りましたので」
「ところで、小説の内容はどんなですか?」
「1文無しのギャンブラーが、星の数ほどあるカジノを巡って大逆転する、一攫千金サクセスストーリーです」
どこかで聞いたような設定で、思わず帝統を見る。
お冷を飲んでいた帝統は、興味を示すように目を輝かせていた。
「お、とうとう俺が主人公の話書いてくれんのか!?」
「大逆転ってことは、1回どん底落ちるのは既に決まってるのかぁ。人生山あり谷ありって言うもんね」
「おい棗!縁起でもねぇこと言うなよな!」
「まぁそれは嘘だけど。星に関連する物語にしたいと思ってますね」
「出たー幻太郎さん節ー。了解です」
「まーた得意の嘘かよ。でもダチとダチのコラボか。楽しみにしてるぜ」
話の切りがいいところで、頼んだ料理がそれぞれ運ばれてきたため、私たちは一緒にお昼を食べた。
コックさんが作ったからか、楽しくお喋りしながら食べてるからか、パスタもピザもいつも以上に美味しく感じた。
END