かにもかくにも撮るぜベイベ
□千里の道も一歩から
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一二三さんは女性が苦手。
一二三さんはスーツを着ないと、女性とまともに話せない。
一二三さんは今、スーツを着てない。
私は紛うことなき女性。
この部屋から出る条件は、5分間言葉を交わすこと。
……いや、これ何の無理ゲーですか?
「いやいやいやいや無理むり無理ムリ」
ドアにすっ飛んでいってドアノブに両手をかける。がちゃがちゃと音が鳴るだけでびくともしない。嘘でしょ何のドッキリだよ笑えねえよ。
「ちょ、責任者!どこ!出して!」
ドアをダンダン叩いたり、ドアに体当たりしたりしたけど、私の拳と体が痛くなっただけだった。予想はしてたけど悲しい。
打開策を求めて自分の持ち物を漁ったら、スマホとお財布、ペンとメモ帳、ハンカチとティッシュしか出てこなかった。あと首にかけてたカメラくらい。
カバンを逆さにして振っても、何も無い。
誰かに連絡して助けを求めようと思ったけど、スマホは圏外になっていた。
どうするよ、この状況。
このままだと家に帰れないし、何より一二三さんが可哀想だ。
一二三さんが心配になって、彼を脅かさないようにゆっくり振り向く。
「うぅ〜……」
一二三さんは、なんとも形容しがたい顔でこっちを見ていた。
真っ青で涙目になってるけど、近づきたいような、でも近づけないような。怖いような、気になるような。色々もどかしそうな表情に見えた。
「っ!!」
でも私と目が合うと、しまった!みたいな顔になってぴゃっと視線を逸らしてしまう。
ここまで重症だったとは……。一体彼の過去に何が起きてしまったんだ……。
いや、今は一二三さんの過去を探ってる場合じゃない。何とか脱出する方法を見つけないと。
「あの、ひふみさ……やっぱりだめか……」
声をかけようにも、彼がビクッと体を丸めてしまい、なかなか話せない。
どうすれば、彼と会話ができるんだろ……、?
そこまで考えてから、私はハッと電光掲示板を見上げた。
『5分間言葉を交わさないと出られない部屋』
ぺかぺか色を変える文字をじっと見つめてから、私はメモ帳のページを1枚びりっと破りとる。
それからペンで文章を書き、紙を折りたたむ。
そして、作ったものを一二三さんがいる部屋の隅目掛けて投げた。
ひゅーんとそれは上手い具合に真っ直ぐ飛び、一二三さんの側にかさりと音を立てて着地した。
一二三さんがそれに気づき、不思議そうに手に取る。
それは、小さな紙飛行機だった。
電光掲示板には『会話しろ』って書いてないし、こういう言葉の交わし方もアリなんじゃないかと私なりに考えた結果だった。
ただ筆談するよりも紙飛行機を投げ合った方が、ちょっとしたゲーム感覚で出来るんじゃないかと、ほんのり期待も込めている。
でも29歳の男性にこのやり方は、子供っぽすぎたかな……。うわぁー脳内まだお子さまでごめんなさい〜。
手をすり合わせて拝みたい気持ちで一二三さんの様子をうかがっていると、紙飛行機を開いて中身に目を通した一二三さんが立ち上がった。
そして、部屋の中央に置いた私のペンを手に取り、紙に何か書いてから紙飛行機を作り直して、私に投げ返す。
ヨロヨロ飛んできた紙飛行機をキャッチし、それを開く。私が書いたものと、一二三さんが書いたものが並んでいる。
『5分間言葉を交わさないと出られないみたいなので、これでやり取りしませんか?』
『モチのロン!これなら俺っちでもいける気がする!』
え、これ誰だ?
つい首を傾げたけど、まぁOKが出たので、私たちは言葉のキャッチボールならぬ言葉の紙飛行機を投げ合った。
『普段はこんな口調なんですか?』
『そーそー!独歩ちんとかセンセーといるときの俺っちは、いっつもこんな感じ!』
『今日は災難でしたねー』
『それな〜!あんなとこでマイク使う奴いるんかーって思ったら、君いるじゃん?俺っちマジビビった!いろんな意味で!』
紙が文字でいっぱいになったら、新しいページを破って使う。
『庇ってくれたの、一二三さんですよね。ありがとうございます』
『どーいたしまして!実は足ブルってたけど、ちょっち頑張って飛び出したんだよな〜。あのときの俺っちはダイタン!』