かにもかくにも撮るぜベイベ

□となりの軍曹さん
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「ところで、お名前は何ですか?私、月見里 棗です」

「碧棺 左馬刻だ」

話すついでに自己紹介をした頃、理鶯さんが料理を運んできてくれた。
入間さんと碧棺さんが、何やら覚悟を決めたように表情を引き締める。

「わー鳥の丸焼きだー。絵本と写真以外で初めて見ました!」

「今日は良き個体が獲れたのでな。たくさん食べてくれ」

美味しそうな匂いが鼻をくすぐり、空腹中枢が刺激される。
お鍋からはホカホカと湯気が立っていた。

「こっちの汁物は何ですか?」

「カミキリムシのスープだ」

「Pardon?」

「良い発音だな。カミキリムシのスープだ」

私の耳がおかしくなったのかと思って聞き返すと、老若男女聞き間違えようのない明確な発音で返事が来た。

「カミキリムシは良いタンパク源だ。幼虫の段階が1等美味いぞ。食べやすく滋養も豊富だ」

待って私の知ってるカミキリムシって、顎の力がすごい強い虫なんだけど。
隣を見れば、入間さんは頭を抱え、碧棺さんは天を仰いでいた。

「これって何鳥なんでしょうか」

「それはカラスだ。鉄分や亜鉛分が多く、コレステロールが低い」

カラスって、夕方になるとお空でカーカー鳴いてる黒いあの子たちですか?
嘘だと言ってよ理鶯さん!?

理鶯さんがおたまでスープをすくい、器に盛り付け、私に差し出す。
それをうっかり、カトラリーと一緒に受け取ってしまう私。

ぎこちなく理鶯さんを見ると、孫にお菓子を勧めるひいばあちゃんのような顔をしていた。

こ、断れない……!こんな優しい表情を曇らせるなんて出来ない……!!
私は震える手でスプーンを持ち、スープをすくった。
ええい女は度胸!目をつぶればいける!

「い……っ、いただきますっ!」

息を止めて口に含む。
コリコリした初めての食感が口に広がり、私は動きを止めた。
だ、大丈夫、大丈夫。牛タンと同じだ。舌だと思うな。虫だと思うな。

考えんなあ!味だけ感じるんだ!

それだけを意識して、もぐもぐと咀嚼(そしゃく)する。

……あれ?何か、意外といける……?
魚の(あじ)によく似てるような味がするし、塩加減とかも……。

「……お、美味しい……です」

「そうか。良かった」

とにかく美味しい。べらぼうに美味しい。材料を知らなければ三ツ星を付けたいくらいに美味しかった。

ただ材料を知っちゃったから心から賛美できない!ごめん理鶯さん!これだけは残さず飲み干します!

夢中で食べていた時ふと気がつけば、入間さんと碧棺さんもかき込むように食べていた。

さっきの2人のシリアスな表情はこれのせいかと、遅れて悟った。

***

お腹がふくれた後、私は入間さんが運転する車で、家まで送ってもらうことになった。
碧棺さんも一緒に後部座席に乗ってる。

「……あの、入間さん、碧棺さん」

「あ?」

「どうしました?」

「お2人のこと、今日から名前で呼んでもいいですかね……?」

「……構いませんよ」

「……好きにしろや」

同じ釜の飯を食べた仲になりました。

END


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