小手毬と青い春
□さみしさの音色
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少し青色があせてきた空の下。
学校を飛び出してからどれくらい走っただろう。
限界が来たのか、橋のところで郁弥が止まる。
(……や、やっと止まってくれた……!)
息切れと少し痛んできた足のせいもあり、安心で気が緩む。
そのとき、私の前を走っていた旭がさらに加速した。
「待てええっ!早まるなああああ!!」
そう叫び、郁弥に飛びつく。
ゴロゴロと派手に転がっていった2人を見て、あわてて足を早めた。
「バカやろう!1回負けたぐらいで、1回負けたぐらいで死のうとすんな!」
そんな切羽詰まった旭の声が聞こえ、私はさっきの旭の行動の意味を知った。
でもその後の郁弥の言葉から、それは誤解だったらしい。
膝に手をついて息を切らす私の後ろから、2つの足音が追いついてきた。
「……なんで、みんな来てるんだよ……」
「当たり前だろ、心配するだろが!」
こちらに背中を向けてつぶやくように言う郁弥に旭がすぐさま言い返す。
「だって、チームだから」
真琴も優しい調子で続け、郁弥の肩が震える。
ふと辺りを見たとき、私は1つの建物に気がついた。
「あそこって……」
"板東スイミングクラブ"と書かれた、青い看板の白い建物。
郁弥が腕で顔をこすり、話してくれた。
「……僕と兄貴が通ってたSC。2人で一緒に世界出たいねって、頑張ってたんだ」
顔をスイミングクラブに向け、ぽつぽつと語る。
「……なのに兄貴、中学になったとたん僕を突き放して……。理由を聞いても、『世界を広げろ』『仲間を作れ』としか言われなくて……」
背中を向けているから、郁弥がどんな顔をしているのか分からない。
でも声が少し震えていて、さみしそうだった。
「……兄貴は僕が邪魔になったんだ。そんな兄貴がどうしても許せなかった……」
郁弥の言葉に、真琴が気遣うような声で話しかけた。
少し笑ってるような響きを持って。
「……それはきっと違うよ。自分でちゃんとできるようになってほしいって思ってるだけなんじゃないのかな。
同じお兄ちゃんの立場としては、ちょっと寂しいけどね……」
前に夏也先輩から聞いた話が脳裏に浮かび、私も口を開いた。
2人の間にある誤解が、少しでも解けるように。
「……夏也先輩、郁弥のこと気にかけてた。"嫌われてもしょうがない"って、寂しそうだった」
「やっぱり、弟のことが嫌いなお兄ちゃんなんていないよ。郁弥、君は1人じゃないよ」
私と真琴がかけた言葉。
郁弥の肩が、背中が震える。
泣くのをこらえるような声。