小手毬と青い春


□迷いと呪縛
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「遅いな。何が原因だと思う?」

ストップウォッチを皆に見えるように向け、夏也先輩が固い声で聞いた。
私はノートを胸に抱え直し、ハルの隣で固唾を飲んだ。

「……引き継ぎ、ですか?」
「そうだね。じゃあ引き継ぎが上手くいかない原因は?」

おずおずと言った真琴に尚先輩が核心をつくような質問をした。

「リレー、泳ぎたい?」

その言葉に皆が口を閉ざす。
険しかったり暗い表情に、私は唇を噛んでノートを抱きしめる腕に力を込めていた。

「全員個人だけ出ればいい」

突然響いた声。
漠然と感じていたような思いがそのまま言葉になったみたいで、私ははじかれたように隣を見た。
他の3人の視線もハルに向く。

「俺は個人のフリーだけでいい」

ハルの視線は、夏也先輩と尚先輩に向けられていた。
自分の意思が固いことを示すみたいに。

「だから、お前が抜けたらリレーに出られなくなるっつってんだろ!」

怒りをはらんだ夏也先輩の声にもハルはゆるがない。

「皆も個人でいいって思ってる」
「……確かに。このメンバーでリレーなんてそもそも無理なんだ」

「え……」

冷めた声で同意した郁弥に思わず声がもれる。

「っ、んなこと言うな!俺は別にそんなこと思ってねえよ!」

慌てたように言う旭に、郁弥は苛立ったように言った。

「じゃあ少しは僕に合わせてよ!旭、自分勝手に泳ぎすぎなんだよ!」

「やめろ!引き継ぎが上手くいかないのは、全員が自分のことばっかり考えてるからだ」

『個人とリレーは違う。その意味をよく考えろ』

夏也先輩の厳しい声と言葉に、皆はただうつむいていた。
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