かにもかくにも撮るぜベイベ

□あなたのためのオートクチュール
1ページ/2ページ





例のごとくカメラを持って、シブヤの街を散歩していたら、女の人たちに囲まれている乱数さんを見つけた。

ほう、老若問わず好かれてるんだなぁ。

少女漫画でよくありそうな、遠目から見ても目立つ光景を眺めていると、ぱちんとソーダ味のキャンディみたいなライトブルーの瞳と目が合った。

あ、女の人たちと何かを話してる。
それからバイバイと手を振って、私の方にパタパタと効果音が聞こえてきそうな足取りで、乱数さんが向かってきた。

「奇遇だねっ。オネーさんもお出かけしてたの?」

「はい。……乱数さん、あの人たちを放置しちゃっていいんですか?」

「"用事ができちゃったからまた今度ね!"って言ってきたから、だいじょーぶだよ☆」

本当に大丈夫かなぁ。何やらお姉さま方が、こちらを見てヒソヒソ話してるように見えるんだけど。

「わぁ、そのカメラ見たことないやつだ!面白い形してるね!」

「これですか?Polaroid SX-70っていう、インスタントカメラですよ」

乱数さんに見えやすいように、カメラを掲げながら説明する。

コンパクトに折りたためるから持ち運びが楽だし、何よりレトロなこのデザインがお気に入りなんだよね。新品だと結構お高いから、質のいい中古品を買ったのだ。

うろうろ動きつつ、色んな角度からカメラを楽しげに観察した後、乱数さんは私の手を軽く握った。

「ねぇねぇ、今から僕の事務所に来てよ〜」

「へ?」

「新しい服を作ろうと思ってるんだけど、なかなかイメージに合うオネーさんがいなかったんだぁ。だから、オネーさんの雰囲気とサイズを参考にしたくって!」

「私で良いんですか?」

「オネーさんがいーの!さっそくレッツゴー!」

軽やかに歩き出す乱数さんに手を引かれ、雑踏の中を進んでいく。
天真爛漫で自由奔放。そんな彼と一緒にいると、何かワクワクする出来事が待っているような気がしてくる。

もしかしたら、アリスが白うさぎを追いかけてた時、こんな気持ちだったのかもしれないな。

***

「うぅ……。やっぱり、服脱がないと駄目ですよね?」

「うん!正確なサイズを測るためだからね。下着は脱がなくてもオッケーだよー」

明るい色で塗られたイラストに、たくさんの資料。トルソーに飾られた服や独特なデザインの置物等など、華やかな色彩が溢れる事務所で、私はえいやとパーカーを脱いだ。

男の人の前で下着姿になるのは恥ずかしいけど、相手が乱数さんでよかった。背丈が私と数センチしか変わらない、ビスクドールみたいな見た目の女の子だと思えば乗り切れる。

ベルトを外してジーンズを下ろし、白いキャミソールも脱ぐ。着ていた服は軽く畳んで、端の方に置いておく。

今日、パステルイエローの可愛い下着つけてて良かった……。

「じゃあ採寸するよ〜。じっとしててね」

「はーい」

乱数さんが巻尺を伸ばし、肩幅から順番に測っていく。ひんやりした帯が肌にふれて、ピクッと小さく反応してしまう。

「ちょーっとガマンだよぉ」

「は、はいぃ」

優しく語りかけながら、胴回りの1番細い位置に、乱数さんが帯を回す。

その時いきなり、部屋のドアが勢いよく開いた。

「乱数ー、ここかー?」

遠慮なく入ってきた帝統が、ブラとショーツしか身につけていない私を見て、フリーズする。
私も目を見開き、開いた口が塞がらなかった。

3秒ほど時間が止まった後、私と帝統は同時に叫んでいた。

「に゛ゃあああああああ!?」
「わあああああぁぁぁ!」

私は必死に胸を両手で隠し、ぺたんと床に座り込む。乱数さんは巻尺を解き、真っ赤になって慌てる帝統と私を笑いながら見ていた。

「やっ、やだやだ何で帝統がいるの!?」

「なっ、ななな何で棗が下着姿なんだよ!何やってんだ乱数!?」

「えー帝統はナニしてると思ったのー?」

「ま、まさかエロいことか!?」

「何言ってんのバカ!」

「とにかく棗はこれ着ろ!」

「わぷっ」

バサッと顔に、帝統が着ていたモッズコートがかかる。これで身体を隠せってこと?帝統って意外と紳士的なところがあるん……。

「うわ、タバコくさい」

「おい!俺の心遣いを床に放るなよな!」

ぺいっとコートを軽く投げる。帝統がキャンキャン言ってくるけど、許してほしい。コートからは、タバコはもちろん、お酒と何か野生っぽい臭いもした。

「実はオネーさんの採寸してたんだぁ。まだ測るところが残ってるから、帝統はまわれー右っ!」

「お、おう!分かった!」

帝統がバタバタと慌ただしく部屋を出ていく。その様子に気が抜けて、ため息をついてから、私は立ち上がった。

「ちゃちゃっと終わらせちゃおっか」

「ソウデスネ」

下着姿をがっつり見られた衝撃は、まだ心の中に消えない染みを作っていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ