かにもかくにも撮るぜベイベ

□あの子どんな子どんな色
1ページ/1ページ





「んむぅ」

鼻と唇の間に鉛筆を挟み、何やら考え込んでいた乱数は、回転椅子をくるりと回してこう言った。

「ね〜ぇ〜、げんたろぉ〜だいすぅ〜。あのオネーさんってどんな色が似合うと思う〜?」

「はて。乱数が言う"オネーさん"とやらは、この世に散らばる物語のように数が多すぎて、小生にはとんと見当がつきませんね」

「乱数が言うオネーさんって、俺が知らない奴とほぼ同じ意味だぞ」

「もー、ちゃんと2人とも知ってるオネーさんだよ!この前ハチ公前とか公園とかで、おもしろ写真一緒に撮ったじゃん!」

「あぁ、棗のことですか」

サイケデリックと言っても過言ではないほどに、色鮮やかな乱数の事務所。
幻太郎と帝統は、今日も乱数に呼ばれて、そこに遊びに来ていた。

「あのオネーさんに着てほしい服を考えてたんだけど、色が白しか浮かばなくてさー。2人のイメージを教えてほしいなーって思って!」

「それなら白でよくね?決まってんだろ?」

「僕はもっとパーッとカラフルで、ハッピーになれる服を作りたいのー!白1色ならウェディングドレスのときに取っときたいー!」

「あなた、棗の花嫁衣装を作る予定なんてあったんですか」

読んでいた小説を傍らに置きながら、幻太郎が意外そうに目を丸くする。
帝統は競馬新聞から顔を上げ、棗に思いを馳せるように宙を見つめた。

「そうですねえ……。小生の主観ですが、寒色より暖色の方が彼女に合うと思いますよ。(あんず)色なんか如何(いかが)でしょうか。黄檗(きはだ)色よりは幼過ぎない印象になるでしょうし」

「幻太郎のボキャブラリーすごーい!さすがシブヤの大作家!ヒュウー!」

「あなた聞き流してないでしょうね?珍しく小生が親身になって考えたというのに」

「だいじょびだいじょび!ちゃあんとメモったよん♪帝統は何色だと思う?」

「うーん、俺は緑だな。公園の芝生みてえな、目に優しいやつ」

「じゃあグラスグリーンとか、スプリンググリーンとかかな!ミントグリーンもいいかも!2人ともありがとー!」

「緑ってそんなに種類あんのかよ」

「というか、乱数が配色に悩むなんて珍しいですね……」

「ねー!僕も自分でビックリしちゃった!」

「つーか本人に好きな色聞いた方が良くね?」

そう言いながら、帝統はちょうど持っていたスマホの通話ボタンを押す。
着信音が少し鳴ってから、スピーカー越しに棗の声が聞こえた。

『帝統?どしたの?』

「あー棗?お前さ、何色好き?」

『唐突だなぁ。空色』

「空色だってよー」

「リョーかいっ。それもメモしとくね!帝統ナイス!あっ今ライム刻んじゃった☆」

『おーい何の話ー?』

「乱数がお前にふモゴモゴ」

「なんでもないよーん!まったねーオネーさん!今度会ったら遊ぼうねーっ♪」

『?はーい』

帝統の口を比較的小さな手で塞ぎ、スマホをスイっと取り上げて、乱数は通話を終える。

「も〜!帝統のおバカ!先にバラしちゃったら意味ないじゃん!」

「そういうことか、わりぃわりぃ」

「これ、もう少しスカートの丈が長い方が良いのでは?」

「幻太郎はちゃっかりスケブを(のぞ)かないの〜!勝手に見るなんてメッだよ!」

END



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ