かにもかくにも撮るぜベイベ
□ラークスパーの遺品
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「もし世界が平和になって、俺たちが戦わなくてもよくなったら、どうする?」
酒が入ったグラスを片手に、小官の隣に座る戦友が、そんなことを言った。
「考えたことが無かったな」
「まぁメイソンは"ストイックに軍一筋"って感じだもんな」
カラカラと笑いながら、戦友は水でも飲むかのようにグラスの中身を空ける。
彼は仲間といるとき、いつも笑顔を絶やさなかった。
全員が緊張し過ぎているときは、肩の力が抜けるような発言や行動をし、場の空気を解きほぐすことに長けていた。
『毒島って呼びにくいから、メイソンって呼んでいいか?』
屈託ない第一声を小官にかけるような男で、言わば軍のムードメーカーだった。
「俺は、そうだなー……。家族のところに帰って、地元の酒屋に弟子入りするかな。美味い酒が作れるようになれば、メイソンたちと飲めるかもしれないし」
「飛燕は常に未来を考えているな」
「こんな世の中だからこそ、明るい未来を目指すべきだろ。夢は現実にするためにあるんだ」
戦友……飛燕が、空になったグラスを祝杯のように掲げ、部屋の灯りに透かす。澄んだ光が飛燕の目に映り、北極星のように煌めいた。
その時、場面が切り替わる。
細く立ちのぼる黒煙と壊れた街並み。
片手にヒプノシスマイクを握りしめて、灰色の世界で横たわる飛燕を、小官は抱き起こしていた。
名前を何度も呼ぶと、飛燕は薄く目を開けて、へらりと小官に笑ってみせた。
「ははっ……だめだ、体動かねえわ」
「直に軍医が来る。それまで、」
「いや、たぶん間に合わない。だから……」
飛燕の手から、ヒプノシスマイクがごろりと転げ落ちる。
もう片方の腕を重たそうに動かし、飛燕が小官の手に何かを握らせた。
それは、飛燕が肌身離さず身につけていたペンダントだった。
丸いオレンジ色の石は、確かサンストーンという名前のはずだ。
「メイソン、頼みがあるんだ。これを、俺の妹に手渡してくれ」
お守りと共に、思いを託された気がした。
それらを大切に握りしめて、「承知した」と答えると、飛燕は安心したように笑って目を閉じた。
そして、そのまま目覚めることなく、息を引き取った。
***
森の中で朝を迎える。
戦争が終わり、軍が解体されてから、小官は1人でヨコハマの森に潜伏していた。
サバイバル生活をしながら、飛燕の血縁者を探すのは、容易なことではなかった。
飛燕は家族、特に妹のことを酒の席でよく話していたにも拘わらず、肝心の名前を小官たちに教えたことは無かったからだ。
自分だけでは、集められる情報に限りがある。
飛燕の最後の願いを叶えるため、小官は新しく出来た仲間から助力を得ることにした。
「会わなければならない人物がいるんだ。銃兎、手を貸してくれないか?」