かにもかくにも撮るぜベイベ

□たまにはあるさ、こんな日も。
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しとしと、ぽつぽつ。
元々高い空にあった氷の粒が溶けて、地上に降り注ぐ音が聞こえてくる。

雨の日は雨の日でいつもと違う写真が撮れるけど、今日は大人しく家にいることにした。

***

ピンポーン。

そろそろ夕飯を作ろうかと思って、自作の写真集のページを閉じて立ち上がったとき、インターホンが鳴った。

お客さんなんて珍しい。あ、でも詐欺だったらどうしよう。

とりあえずモニターで外を確認してみると、なんとそこには、長い前髪が顔に張り付いて表情が分からなくなってる帝統がいた。

「……ん!?え、ちょっ、帝統!?」

ドアチェーンを外すのに手間取ったけど、急いでドアを開ける。
帝統は髪から雫をぽたぽた滴らせてて、着てるモッズコートもジーンズもVネックのTシャツも、ぐっしょり濡れてるみたいだった。
靴も水を吸って、ぐしゃぐしゃになってるかもしれない。

「なぜにそんな濡れ鼠に……。傘は?」

「……買う金ねぇ」

「……風邪ひいちゃうからシャワー浴びなよ。今タオル持ってくるから、ドアチェーンと鍵かけといて」

タンスの引き出しからタオルを引っ張り出し、水気をある程度拭いてもらってから、帝統をお風呂場に入れる。

いつもなら「自然のシャワー浴びてきたから平気だぜ!」とか言いそうなのに、今日の帝統はやけに、しおらしいというか……。

不思議に思いつつ、私は前と同じようにジャージと下着とバスタオルを脱衣カゴに置いてから、エプロンを着けて冷蔵庫を開けた。

野菜はじゃがいも、人参、玉ねぎがある。
冷凍庫には、小分けして保存してる豚肉があった。
今日は肉じゃがにしようか。肌寒いし、温かいごはんを食べよう。

お風呂場のドアが細く開いて、そこから伸びた腕が洗濯機に服を入れる。
帝統が自分で絞ってくれたのか、それらしい跡が服についていた。

まな板の上に材料を並べてから、洗濯機を回して、野菜の皮を剥く。
それから人参とじゃがいもは乱切りに、玉ねぎは半月切りにして、それらを水にさらした。

その間に、電子レンジで解凍した豚肉を食べやすい大きさに切ってから、鍋に油をしいて熱する。

じんわり温まったら、豚肉を炒めて、その後水切りした人参とじゃがいもと玉ねぎを投入。

材料に火が通ったら水を入れて、和風だしの素も入れてから蓋をして、しっかりくつくつ煮込む。
この間にボウルやピーラーや包丁等を洗って、洗い終わった服は洗濯カゴに移してしまう。

その間に、帝統は着替えを済ませていた。

「体、温まった?何か飲み物いる?スティックの紅茶しかないけど」

「……や、いい」

「そっか。夕飯はも少し待っててね。今日は肉じゃがだよ」

帝統の方を向いて声をかけると、帝統は何だか物言いたげな顔をしていた。
「イエー!肉ー!」みたいな反応が返ってこないから、私はますます気になった。

落ち込むことでもあったのかな。
スロットで外しまくったとか、賭博でボロ負けしたとか。

……帝統の分の肉じゃがは、多めによそってあげようかな。

そう考えてから、私は柔らかくなってきた材料に麺つゆで味付けをした。

***

今日の肉じゃがも、帝統は「……うめぇ」と言って完食してくれた。

柔らかく煮込んだ豚肉とホクホクのじゃがいもと人参には、麺つゆの味がよく染みている。
玉ねぎの甘さもほんのり感じて、ご飯がよく進む気がした。

しっかり胃を満たして、後片付けやら何やら全部済ませて、床に帝統が寝るための布団も敷いて。さぁ後は寝るだけだとベッドに入るその時。

「ちょ、何で帝統ベッドに入ってくんの。帝統はあっち。床に布団敷いたでしょ」

「床、かてぇしさみぃ」

「いや前は床でおやすみ3秒してたじゃん。あのときの寝つきの良さはどこ行った」

「食った」

「食うなよ。いやしんぼさんか」

「良いじゃねーか……。減るもんじゃねーだろ」

「いや減るからね?私の寝る場所と体温が減るからね?もしもし?」

やけに元気が無さそうな声で冗談を言いながら、もそもそと帝統がベッドに潜り込んでくる。
降りて床に戻る気は、今のところ無いらしい。

「……胸か腰かお尻さわったら、問答無用でベッドから蹴り落とすからね」

「……クッ、分かった。てか、めっちゃ具体的だな」

「地雷は明確にしといた方が、お互いのためになるんだよ」

今日初めて帝統が笑う。
吐息が耳にかかる。

帝統が腕を私のお腹に回し、後ろから私の体を抱きしめた。
細身に見えて意外とがっちりしてる帝統の体が、背中に密着する。
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