かにもかくにも撮るぜベイベ

□野良猫、保護しました
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家の近くでウロウロしていたその子は、初めて見た時よりしおれた顔をしていて、何だか薄汚れていた。

「あれ?帝統くん?」

「……お?あ!あんたあの時の!カメラの姉ちゃん!」

「棗だよ。月見里 棗」

見事に名前を忘れられていたため、私はもう1度自己紹介をした。
まあ1回しか会ってなかったし、しょうがないか。

「棗か!覚えた!」

「ところで、何でここに?」

「ここら辺にあるパチンコで、スロットに有り金全部ぶっ込んだら見事にスっちまった」

「つまり今現在ゼロ円生活!?いっそ清々しいな!?」

話には聞いたことがあるけど、この子骨の髄までギャンブル狂だな!?
お金の用意も気になるけど、今までどうやって生きてきたんだ?

そう思った時、"ぐ〜ぎゅるるる〜"と盛大なお腹の虫の鳴き声がした。
私じゃない証拠に、帝統くんがお腹を押えて力が抜けたようにしゃがみ込む。

「……は、腹へった……」

「あ、歩ける?私ここの近くに住んでるから、ご飯とか提供できるよ?」

「……ま、マジか……?ありがてえ……」

雨の日に傘を差しかけられた捨て猫のように、彼は私を上目遣いで見上げた。

ふらつく彼を立ち上がらせ、家に入れてから、私は帝統くんの背中を軽く押して浴室の前に案内する。

「まずはお風呂!髪も体も顔もちゃんと洗う!ご飯はその後!服は洗濯機に入れてね。洗っとくから」

「え。でも俺、服これしか持ってねーよ?」

「こっちで用意しとくから安心したまえよ。まずは何日分か知らないその汚れを落としてこーい」

「女神かよ!んじゃ遠慮なく借りるぜ!」

「ちょ、ここで脱ぎ出すな!浴室入ってから脱いで!」

コートをガバッと肩から落とし、下に着ていたVネックの黒Tシャツを豪快にクロス脱ぎして、半裸になった帝統くん。
更にベルトに手をかけたので、私は急いで彼を浴室に押し込んだ。

あーびっくりしたー。
忙しなく跳ねる心臓を押さえ、私はタンスからバスタオルとジャージを出して、脱衣カゴに入れといた。

それからお財布を持って、近くのコンビニに行き、男物の下着を調達する。
流石にそれは持ってなかったからね。

家に戻ると帝統くんが着ていた服1式が洗濯機の中に入っていたので、私は洗剤と柔軟剤を入れてから洗濯機を回した。

浴室からは水の音が聞こえる。
言われた通りに、ちゃんとシャワーを浴びてるらしい。

さて、今日の夕飯何にしようかな。
1人じゃないから多くても大丈夫だろう。そうだ、この前買った餃子にするか。2人分は余裕である。

エプロンを着けてから、冷凍庫から餃子が入ったパックと保存していたご飯を取り出す。
電子レンジで解凍してからお茶碗にご飯を盛り付け、私はフライパンに油を敷いた。

「棗、風呂と服サンキュな!久々にさっぱりした!てかお前、男物の服持ってたんだな」

「まあねー。あ、流石に下着は今日買ってきたやつだけどね」

まさかこんな所で、お兄ちゃんのお下がりが役に立つとは思わなかったよ。
それにしてもやけに態度がフランクになったな。もう帝統って呼ぼう。

「お、今日餃子じゃん!やったぜ!」

「そういえば、帝統って肉好きそう」

「肉は男の主成分だからな!でもメシは全部好きだぞ。そーいや君付け無くなったの何でだ?」

「だって、ふふっ。帝統って君付けするほど殊勝なキャラじゃなさそうなんだもん」

「はぁ!?何だよそれバカにしてんのか!?」

「怒った?ごめんごめん。帝統の分の餃子、1個おまけしてあげるから許して」

「しょーがねーな。全部水に流してやるぜ!」

「ちょっっろ」

「おい声に出てんぞ!正直にも程があるだろお前!」

爽やかな笑顔で態度を変えた帝統の現金さに、私はつい本音を出してしまい、彼にキレのいい突っ込みを入れられた。

その間に温まったフライパンに餃子を並べ、ちょうどいい具合の焼き目をつける。
そしてお湯を入れて蓋をし、強火で蒸し焼きにした。

「ほら。まだ出来ないから、向こうでテレビでも見てな」

「んー。おう」

手持ち無沙汰らしい帝統がウロウロしてるのが視界の端に映り、私はテレビとテーブルとベッドがある別室を指さす。

何か手のかかる弟ができた気分だ。
……いや、気まぐれな野良猫かな?

前に写真を撮らせてくれた、野良にゃんこくんを思い出す。

そこから帝統の髪と同じ群青色の毛並みのにゃんこを連想し、それがあんまりしっくりきたので、私は思わず吹き出した。
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