かにもかくにも撮るぜベイベ
□今は写真だけど
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私の趣味の1つは、スナップ写真撮影。
その街によって景色も歩く人たちも違うから、撮った写真を見比べるのが好き。
シンジュクを歩き回りながら写真を撮っていると、コンクリートジャングルには珍しい、緑に囲まれた公園を見つけた。
「お!休むのにちょうどいい!」
時間もお昼頃だったから、私は近くのコンビニでパンとかお菓子とかを購入し、公園に入った。
マイナスイオンに包まれるような気持ちで深呼吸をし、ベンチに空きが無いか探すと、赤っぽい髪の男の人を見つけた。
「あ」
前に宣材写真を撮った観音坂さんだ。
膝の上にコンビニ弁当を広げていた彼がふと顔を上げ、私を見つける。
「こんにちは、観音坂さん」
「こ、こんにちは。……何でここに……」
「写真撮りに来ました!」
「そ、そっか。普通カメラ持ってるのを見れば想像つくよな……。せっかくまた会えたのに愚問しか聞けないなんて。俺はいつもこうだ……」
まずい。よく分からないけど何かのスイッチを押してしまった気がする。
梅雨時の雨雲みたいにどんよりした空気が、観音坂さんを覆っていくみたいで、私は慌てた。
な、何か、この状況を解決するアイテムは無いのか!?
ビニール袋をとりあえず漁る。
さっき買ったチョコレートを見つけたので、私は包み紙をむいて観音坂さんの口にそれを押し込んだ。
「んむ……!?」
「疲れたときには甘いものが効くそうですよ」
ブツブツ言っていた観音坂さんが、チョコレートを食べるために無言になる。
これでネガティブ退散になればいいけど。
「す、すみません。変なところをお見せして……」
「いえいえ、気にしないでください。あ。隣座ってもいいですか?」
「ど、どうぞ……。こんな中年の、おっさんの隣でよければ……。むしろ申し訳ない……」
「中年て、それ神宮寺先生より歳上になっちゃいますよ!謙遜が過ぎます観音坂さん!」
中年って、40歳から50代半ばくらいの人を指すらしいし。
観音坂さんまだ29歳くらいだよね?まだ壮年じゃんか。
「観音坂さんは、カッコ良いお兄さんですよ。私が保証します」
「か、格好良い……?俺が、ですか?」
「はい!私が今まで何人の男の人を撮ってきたと思ってるんですか。人を見る目はあるつもりですよ」
えへんと胸を張ると、観音坂さんはどう反応していいか分からないと言うような表情で、私を見ていた。
「そ…………か…………しい」
「?すみません観音坂さん、今何て言ったんですか?」
「……もう一度言わせるのか……?いやでも俺が悪いのか。ハゲ課長にも声が小さいって怒られたし……最初からハキハキ話さない俺のせい彼女の耳に聞こえるようにちゃんと声を出さない俺のせい俺のせい俺のせい……」
「わー!またネガティブモードに!」
大丈夫かこの人!?生きづらそうだな!?
こうなったらもう放っておけなくて、私は観音坂さんの背中を叩いたり頭を撫でたりして、何とか落ち着かせようとする。
しばらくそうしているうちに、観音坂さんの鬱々とした呟きが治まっていき、彼が恥ずかしそうな赤い顔で言った。
「そ、そういうことは……勘違いするから、止めてほしい……です」
「お世辞だと思っちゃうってことですか?大丈夫ですよ。私が言う言葉は99.9%本音なので」
残りの0.1%は、どうしようも無い時についちゃう嘘です。
致し方ない嘘ってあるよね。
「いや、そうじゃなくて……何でもないです」
「何でもないって顔してませんよ」
目の下のクマが濃いし、くたびれたような雰囲気だけど、頬を染めてモゴモゴ言ってる姿はちょっと可愛かった。
いくらでも次の言葉を待ちたくなる。
2人並んでお昼を食べて、観音坂さんは休憩時間が終わる前にベンチから立ち上がった。
「そ、それじゃ。……あの、その」
「?」
「……ま、また、こうして話しませんか……?君さえ良ければなんですけど。こんな根暗な奴ごめんだって言うならもう話しかけませんから。その、」
「いいですよ!この公園が待ち合わせ場所でいいですか?」
「……!」
観音坂さんともっと話してみたいと思っていた私は、彼の後半の呟きを半分聞いてない状態で即答する。
観音坂さんの表情が、ロウソクに火を灯したように少し明るくなった。
「あ、そうだ!これどうぞ」
「……海の、写真?」
「空とか海の写真を見ると、ストレスが解消されるらしいですよ」
肩掛けカバンに入れてあったミニアルバムから、1枚の写真を観音坂さんに手渡す。
コバルトブルーの空とエメラルドブルーの海がとても美しい、心洗われる景色を写したものだ。
「……え、こんな綺麗な写真、俺なんかがもらってもいいんですか……?」
「もちろんです!」
「す、すみませ……」
「そういうときは、"ありがとう"の方が嬉しいですねー」
「っあ、ありがとう……」
「どういたしまして!」
にっこり笑って言葉を返すと、観音坂さんはまた直射日光を浴びたような顔をした。