かにもかくにも撮るぜベイベ
□となりの軍曹さん
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その日は、ヨコハマにある山に来ていた。
目的は、森の写真集を作るため。
虫除けよし、履きなれたスニーカーよし、動きやすい服装よし。リュックや愛用のカメラも持ったし準備は万端!
山をパッと見た感じ禿げてる所があったけど、野生動物が暮らしていそうなくらいに緑が残っている場所もあった。
ツタが絡みつく巨木や、獣道に咲く花を撮っていたとき、枝の上にリスを見つけた。
そっとカメラを構えると、リスの方からちょこちょこと寄ってきてくれた。
私は不思議と、昔から動物に懐かれやすい。悪い気はしないしむしろ嬉しい。
おかげで動物たちを間近で撮れる!これはありがたい!
そうして夢中で写真を撮り続けるうちに、私は山の奥深くまで入ってしまったみたいだった。
ハミングしながら獣道を歩いていたとき、異変が起きた。
「う、わあああぁぁぁ!?」
足首に何かが巻き付き、引っ張りあげられ、あれよあれよという間に私の視界は逆さになっていた。
「えーっ!?ちょ、何これ!?罠!?」
見下ろせば、足首に絡みついたロープと空が見える。
下手に動いたら木とかに頭をぶつけそうで、私は動くに動けない。
全然あることに気づかなかった……。
これ作った人器用だな。
「とりあえず、このアングルは滅多にないから撮っちゃえ」
ポジティブに考えながら逆さまの状態でシャッター切ったけど、このまま放置はキツイぞ。
頭に血が昇ってしまう。それは困る。
「すみませーん!だーれーかー!いませんかー!」
必死に大きな声を出していたら、ガサリと草が揺れ、男の人が現れた。
「あ、こんにちは。私、月見里 棗といいます」
「そうか……。何故こんな所に?」
「森の写真集を作るために来たんですけど、撮るのに夢中になってたらこうなりました。降ろしてもらっても良いですか?」
逆さで宙ぶらりんになってるマヌケな状態だけど、私は何とか目の前の彼に自己紹介と状況説明をする。
すると彼は私の上体を片腕で支えてから、もう片方の手でロープを切った。
私の足がロープから解放されたことで私の体は落下し、ボスッと彼の腕の中に収まる。
安心と安定の筋肉だ。たくましい。
「棗、と言ったな。小官は毒島メイソン理鶯という。この山に潜伏している、元軍人だ」
「なるほど!だからミリタリー系の服なんですね。階級は何ですか?」
「一等軍曹だ」
「おおー」
軍曹っていう言葉自体はアニメや小説で聞いたことがあるけど、どのくらいの地位かはよく分かってないです。
相槌を打ったとき、私のお腹からキュルキュルと音がした。
何でこのタイミングで鳴るんだ私のお腹は。距離も近いし当然聞かれたぞこれ。
「腹が減っているのか。よければ小官のアジトで休んでいくといい。敵でないのなら歓迎しよう」
「え、良いんですか?ありがとうございます!」
どことなく張り切ったような声色の毒島さんに片腕抱きをされ、私は森の更に奥へ運ばれることになった。
もちろん道中でも写真を忘れずに撮った。
***
隠れたベースキャンプに到着し、横向きに置かれた丸太の上で私はちょこんと座って待つ。
「毒島さんって呼びにくいので、理鶯さんって呼んでもいいですか?」
「あぁ。構わない」
すっかり打ち解けて話をしていると、誰かの話し声が聞こえ、草を踏む音が近づいてくる。
そして木の影から、背の高い男の人が現れた。
ルビー色の瞳が警戒心むき出しで私を睨みつける。やだ怖い。
「……あ゛?誰だてめぇ」
「いやあなたこそどちら様ですか」
「落ち着け左馬刻。彼女は客人だ」
彼は理鶯さんの知り合いらしい。
ドクロがプリントされたアロハシャツを着た美人さんだけど、開口一番その台詞って失礼では?
「おや?奇遇ですね。こんなところで会うなんて」
「あ、入間さん!」
危ういところを助けてもらった警官さんと、思わぬところで再会してしまった。
あと何で森の中にスーツで来てるの?動きづらくない?
「銃兎の知り合いだったのか」
「ええ。前に彼女が闇取引の現場に乱入したところを助けたんです」
「どうしたらそんな状況になんだよ。チビのくせに命知らずか」
「その節はお世話になりました。あと乱入したくて乱入したわけじゃないです。事故です」