かにもかくにも撮るぜベイベ

□うさぎのおまわりさん
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あの日私は、ヨコハマの港近くのコンテナヤードにいた。

「おぉー、レゴブロックの世界みたい」

カラフルなコンテナがたくさん積まれた間を、写真を撮りながら歩く。
本来コンテナを集めておく場所だけど、ここで隠れんぼしたら盛り上がりそうだなー。

1人スパイごっこの気分で、コンテナの影に身を潜めながらファインダーを覗き込むと、銀色のアタッシュケースが見えた。

サングラスをかけた黒いスーツの人が数人いて、お札の束が詰まった黒いカバンもある。

びっくりして思わずシャッターボタンを押してしまった。

カシャッ。

「誰だ!!」

しまったあああああ!
何でシャッター音消しとかなかったんだ私!完璧に向こうに気づかれた!しかもあれどう見ても絶対アウトな取引の現場だよね!?

悪いことは重なる。

カメラ越しに、目と目が逢う瞬間、死んだと気づいた。

「火事だあああああぁぁぁ!」

Uターンして逃げるっきゃないよねこんな状況!

あ、別にパニックになって支離滅裂な発言したとかじゃないです。
不審者に会ったときは、この台詞が効くらしいです。

「待ちやがれ!!」

誰が待つかぁ!待ったとたんにひどいことするんでしょうが!エロ同人のように!
シンデレラだってルパンだって、待てと言われて「はい、待ちます」って大人しく立ち止まったか!?答えは否!

絶対逃げ切ってみせる!諦めたらそこで試合(人生)終了だ!

死にものぐるいで走りながらコンテナの角を曲がったとき、思い切り何かに衝突した。

「わぶっ!?」

「っと」

たたらを踏みながら鼻をさする。
目の前にいたのは、眼鏡にスーツのインテリ風お兄さんだった。

待って?私の他にも人がいたの?え?この人敵?それとも一般人?

「騒がしいと思ったら……報告にあった全員がいるようですね」

お兄さんが私を背中に庇いながら、追いついてしまった強面の人たちと対峙する。
私は慌てて彼の腕を掴んだ。

「ま、待ってください危ないです!逃げましょう!」

「ここで逃げたら警官の名折れでしょう。大丈夫、必ず守ります」

挑んでくるのが1人だけだと気づいた黒スーツたちが、馬鹿にしたような声を上げ、マイクを構える。

お兄さんも、何の変哲もないマイクを取り出した。
カチリとスイッチが入った時、そのマイクが黒い無線の形に変化する。

「耳を塞いでいてください」

言われた通りに両耳を手で押さえたけど、この人声大きいな?耳塞いでるのにラップのリリックが聞き取れる。

強面の人たちがバタバタ倒れていく。
三下を高みから見下ろすように、余裕たっぷりの表情で制圧する彼から目が離せなくて、私は思わず斜め後ろから写真を撮っていた。


お兄さんが呼んだパトカーに、強面の人たちが運ばれていく。
他の警察官さんと話を終えたお兄さんに、私は深く頭を下げた。

「助けてくれてありがとうございました!」

「警官として当然のことをしたまでですよ。あなたに怪我が無くて良かった。……ところで、先程私の写真を撮っていたようですね?」

わあ聡い。バレてた。

「……すみません。あんまりカッコよかったので、指がシャッターボタンを押してました。私の悪い癖です」

「右京さんですか?肖像権侵害として、この場でしょっぴいてしまいましょうか」

「絶対悪用せずに私個人の観賞用にします!お天道様に誓うので見逃してください!」

「手の届かない場所にある太陽よりも、目の前にいる私に誓ってほしいですね」

「もし万が一、私が悪用したら、その時は遠慮なくしょっぴいてもらって構いませんから!」

悪用なんて死んでもしないけどね!こうでも言わないと信じて貰えないだろう。
そんな思いで頼み込むと、お兄さんは目を丸くしてから、口元に手を当ててそっぽを向いた。

よく見ると、肩が小刻みに震えている。え、もしかして笑ってる?

「……っふふ。自分からそんなことを言う人なんて、初めてですよ」

それは何だか、自然な笑顔に見えた。
ついカメラを構えると、今度はダメだったようで、ワインレッドの手袋でレンズをやんわり覆われてしまった。

「しょっぴくためには、あなたが誰か分かってないといけませんね。私は入間 銃兎といいます。あなたは?」

「月見里 棗です!」


END



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