かにもかくにも撮るぜベイベ
□宣伝って大事
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はい。どうも皆さんこんにちは!
写真家やってる月見里 棗といいます。
雲が2つか3つ浮かんでるだけの青空に、心地よい温かさをくれる日差し。
絶好の撮影日和であるこの日、私はシブヤにあるフォトスタジオに来ていた。
え?屋内で撮るなら天気は関係ない?
いやいやそれが関係あるんですわ。
だってどんよりした天気より良い天気の方が、仕事のモチベーションが上がりやすいんだよ。
あれ?これ私だけ?まぁいっか。
今日のお仕事は、ディビジョンラップバトルに出場するチームの宣材写真を撮ること。
中王区からの説明によると、テレビや雑誌等のメディアでチームの紹介をたくさんするらしい。
宣伝するには、パッと目を引きやすい写真が1番手っ取り早い!という訳で、何故か私がご指名いただきました。
よーし頑張るぞー。
***
最初はイケブクロ代表のチームだった。
他のディビジョンと違って、彼らは兄弟でチームを組んでいる。
全員私より歳下の10代で、3人のうち2人はまだ学生。めっちゃ若いな。
挨拶と共に名刺を渡すと、長男の一郎くんも『萬屋ヤマダ』と書かれた名刺をくれた。
しっかり者の兄貴肌って印象だ。
「えーと……?」
「それ、"やまなし なつめ"って読むよ」
「!そ、なのか」
「読みにくい名前だよねー。ごめんね。次からフリガナ振ろうかな」
次男の二郎くんが、眉間にシワを寄せて目を細めながら名刺を凝視していたから、読み方を伝える。
すると、ぎこちないながらも言葉を返してくれた。
見た目は女の子慣れしてそうなのに、意外と純情なのかな。可愛いな。
「こんなのも読めないのかよ、低脳」
「うっ、うっせーよ三郎!ほっとけ!」
「おいお前らケンカすんな!」
おっと、丁寧に挨拶をしてくれて人当たりが良さそうだった三男の三郎くんが、二郎くんのことを鼻で笑ったぞ。
もしかしたら結構、意地悪な可能性あるな。
それよりこの三兄弟、シンプルな名前で覚えやすいなー。いいなー。
もう少し話してみたいけど、そろそろ撮影に取りかかることにした。
今日は他のチームも撮る予定だしね。
「一郎くん、このマイク構えてポーズ取ってくれる?」
「了解っす」
一郎くんにはスタジオにあった黒いマイクを渡し、カメラテストをしてから本番に入る。
「二郎くん、左足をちょっと上げたポーズでお願い。あ、目はつむっちゃダメ。我慢してね」
「お、おうっ!」
テストの時はフラッシュで目をつむってしまった彼だけど、本番には強いのか大人っぽい表情で写ってくれた。
「三郎くんは右足を少し上げて、二郎くんと対照的になるように」
「こうですか?」
「そうそう!」
三郎くんの撮影はすんなり終わった。
相手の要求に的確に答えるのが上手いなこの子。本当に中学生?察しが良すぎる。
「月見里さん」
「どしたの?」
撮影を終えた時、一郎くんが話しかけてきた。
ちょっと緊張したような顔に見えたので、私は首を傾げる。
「月見里さんって、色々写真集出してますよね?アニメの聖地とか」
「お、知ってるの?聖地巡礼しながらあちこち撮りに行ったよー」
「やっぱり!名刺の名前見てピンと来たんですよ!アニメのカット通りに綺麗に撮ってて、その場に行ったみたいな気持ちになれました!」
「そう言ってもらえると嬉しいねぇ。ありがとう」
アニメの画像と比較しながら、変な体勢になりつつ撮影したことを思い出して、表情筋が緩む。
目を輝かせながら語ってくれた一郎くんとアニメの好みが合い、私たちは業務用ではない個人的な連絡先も交換した。