脱出せよ! 【完】
□それは突然に…
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さつきからの連絡を受け、私は教室を飛び出した
階段で鉢合わせた高尾くんと左右に分かれ、懐中電灯を照らしながら教室内を確認していくと、一つの教室の掃除用具箱の前でうつぶせに倒れている3人を見つけた
『いたっ!!高尾くん!コッチ!!』
高尾くんに場所を伝え、教室に入ると3人に駆け寄った
「真くん!リョーちゃん!笠松さん!!」
3人を順番に起こすように体を揺すっていくが、3人ともピクリとも動かない
『え…?』
「麻紀ちゃん!3人は無事か!?」
『わかんない…みんなピクリとも動かない…』
「えっ!?」
『特に…笠松さん…何か異様に冷たいの…』
高尾くんは慌てるように笠松さんの体を強く揺すった
「笠松さん!笠松さんっ!!」
高尾くんがうつぶせになっている笠松さんの体を起こすと、笠松さんの胸からドロっと赤い液体が流れ、高尾くんの手を赤く染めていく
「まさか…死んでる…?」
高尾くんの言葉でカウント計を見ると、15が14に減っていた
『ウソ…でしょ…?』
真くんやリョーちゃんと違って、ひんやりと冷たかった笠松さんの体
14に減ったカウント計
それが否定したかった事実を肯定させた
「そんな…誰がっ!?」
辺りを見渡してもモンスターはいない
それに、何で笠松さんだけ…?
「ごめん…オレが…殺した…」
声のする方に目を向けると、そこには学ラン姿の見慣れない男子生徒が赤く染まったナイフを手にして立っていた
おそらく、アレが凶器なのだろう…
「宮地さん…」
高尾くんや真くんと同じ制服
そして、高尾くんが迷いなく宮地さんと名前を呼ぶあたり、きっと先輩なんだと思う
「アンタ…何で笠松さんをっ!!アンタ何なんだよ!?」
高尾くんは申し訳なさそうにうつ向く宮地さんの胸ぐらを掴み怒鳴った
「オレは…お助けキャラだ…」
「はぁ!?お助けキャラ!?んなわけねぇだろ!!何でお助けキャラがプレイヤーを殺すんだよ!!有り得ねぇだろ!!」
「お、オレは…」
「それとも、お助けキャラとかって言っておいて、そのナイフでオレらも殺そうとかしてんすか?」
「ち、違う!!」
宮地さんは、そんなことしないと証明するように手に持っていたナイフを投げ捨てた
「ほ、本当は…オレだってこんなことしたくなかったんだよ!!」
宮地さんは、自分の震えている両手を見つめ、叫んだ
「じゃあ!何でっすか!!何で殺したんすか!?」
高尾くんは宮地さんの胸ぐらを掴んだまま、悔しそうに下を向いた
私はせめて、と思い、持っていたハンカチで血で汚れた笠松さんの手を拭いていた
「マスターが…」
「『マスター!?』」
マスターと言う単語に反応した私と高尾くんは宮地さんに顔を向けた
「このままじゃつまらない、って…」
「つまらないって何だよ…」
「だから、笠松を殺せって…」
「はぁ?」
『でも、何で宮地さんが笠松さんを…?』
「運だよ…マスターはあみだクジでオレが笠松を殺すんだことに決めたんだ…」
そんな簡単に人の生き死にを決めていいものだろうか
私と高尾くんの怒りは完全にマスターに向いた
「もちろん、オレは断ったよ!でも…マスターは、オレが笠松を殺さないとオレはもちろん、他のお助けキャラは与えない。って…」
つまり、今吉さんと宮地さんの他にもお助けキャラはいるのだろう
「それでもオレは拒み続けた。お前達には申し訳ないけど、今のお前達ならお助けキャラなんていなくても、クリアしてみせるだろうって思って…」
お助けキャラがいるなら、いるに越したことはない
でも、誰かを殺されるくらいなら、お助けキャラなんていらない
「でも、一向に殺そうとしないオレにシビレを切らしたマスターは、お前が笠松を殺さないなら、お前達に更なる試練を与えるって…」
『更なる試練…?』
「カウント計を見てみろよ…」
宮地さんに言われ、カウント計を見て目を丸くした
『え?14:70!?』
「さっきまで40だったハズじゃ…!?」
「オレにシビレを切らしたマスターがモンスターの数を増やしたんだ。しかも、モンスターのレベルも上げて…」
「そんな…」
「それに気付いてるか?さっきからモンスターが現れないのを」
『そう言えば…』
「マスターがモンスターの出現を止めたんだよ。このままお前が笠松を殺さないならモンスターの出現率を低くし、更に数を増やし続けていくって…そんなことをされたら、時間内に全てのモンスターを倒しきれない…だから、オレは笠松を殺すしかなかったんだよ!!笠松を殺してもオレがお助けキャラとしてお前達を助けることが出来る…だから、笠松には申し訳ないけど死んでもらうしかないって…」
笠松さんを殺さない限り、私達への負担が増えて行く
苦渋の上の選択だったのだろう
この話を聞いたら、私にはもう宮地さんを責めることはできない
それに、今一番ツライのは宮地さんだ
究極の選択を迫られ、悩みに悩んだ末に、顔なじみである笠松さんを殺した
私達もモンスターをたくさん殺してきたが、私達とは勝手がちがう
生身の人間を、あの小さなナイフで至近距離で殺したんだ
刺した時の感覚や笠松さんから出る暖かい血、臭いを間近で感じたんだ
私達には到底及ばないほどの苦痛だっただろう
「高尾、こんな弱い先輩でゴメンな…」
「そんな!宮地さんは何も…!」
「本当はオレも笠松の後を追うつもりだったんだ。オレには耐えきれなくて…」
宮地さんは、キレイな涙を一筋流した
「でも、死ねなかったんだよ…」
宮地さんは、投げ捨てたナイフを広い、自分の胸に当てた
『宮地さん!?』
「宮地さんは悪くねぇっすよ!悪いのは全部マスターで…!!」
「でも、オレが笠松を殺したことに変わりはねぇんだ」
「宮地さんっ!!」
宮地さんは、大きく振りかぶり、高尾くんが止めようとしたが間に合わず、ナイフは胸に刺さった
「宮地さんっ!!」
だが、宮地さんの胸から血は流れず、宮地さんも痛みにもがく様子はなかった
「オレは死ねないんだって…」
「え?」
宮地さんは胸に刺したナイフを抜き取り、再びナイフを床に投げ捨てた
「勝手だよな…自分がオレに笠松を殺すように指示したのに、笠松を殺した罰だってオレを死ねない体にしたんだ」
『死ねない体?』
「刺した時の痛みはあるけど、もがくほどのものじゃない。見てみろよ。血すら流れねぇんだぜ?」
宮地さんは学ランのボタンを外し、真っ白なワイシャツを見せてきた
ただ、ワイシャツには2つナイフで刺した跡があった
一つは笠松さんを殺して、後を追うために刺した跡だろう
「笠松をすぐに殺さなかった罰と、笠松を殺した罰だとよ。お前には笠松を殺した苦痛をゲームが終わるまで味わってもらうってさ。本当勝手だよな…」
力なく笑う宮地さんに、私も高尾くんも何も出来なかった