クロスオーバー

□野球
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「来週末、練習試合よ!」




10月某日

部活活動時間から少し遅れてカントクが、そんな事を言った




「どこと?」

「青道高校よ!」

「どこで?」

「青道高校で!」

『どの辺?』

「西東京だと言うことは知ってますが、詳しい所在までは…」




たまたま持ち合わせていたスマホで検索すると、すぐに探し当てられた




『へぇ。野球強いのか』




検索結果には、青道高校の所在などの情報の他に、夏の西東京都代表を決定する大会、通称夏大の決勝で甲子園出場に一歩及ばず敗れたとの情報も記載されていた




「バスケは?」

『えっと…』

「でも、インハイの決勝リーグには上がって来てなかったよな?」

『あ、2回戦敗退だそうっす』




結果だけ見れば格下にも見えるだろう

だが、青道高校が敗退した時の対戦相手は桐皇学園

桐皇学園は大輝が在籍する高校で、インターハイ本戦に進んだ学校だ

もしかしたら、対戦相手が悪かっただけで、本当はもっと上に進めたかもしれない

だが、2回戦敗退と言うこともあって、他の情報が何もない




「だからこそよ!私達は来月のウィンターカップの予選もある!色んな相手と戦って経験値をあげるのよ!」

「だから、練習試合の申し込みを受けたのか?」

「そうよ!そして、あえて会場を青道高校にしたわ!」

「え?何で?」

「ホームでやっても、やり慣れてるでしょ?この先、毎回会場がホームなんてことはありえないわ!慣れない地での耐久性も上げるのよ!」




と言うわけで、練習試合当日

俺達は数駅先の青道高校まで来ていた




「すげー!野球グラウンドが2つもあるぜ!?」

「力入れてる学校は違うねぇ」




遠くの方に見える野球グラウンド

2つも構えている学校なんてそうそうないだろう

俺達は初めて訪れる青道高校に、キョロキョロしながら会場である体育館を目指していた




「キャッ!!」




そんな時に、後方から聞こえてきた短い悲鳴と、派手な音に驚いていた振り向くと、足元に大量の白球が転がっていた




「うわっ!?」

「え!?えっ!?」

「野球ボール!?」

「転ばないでよ!!」




一歩間違えれば、白球を踏んで転んだ拍子にケガを負ってしまうかもしれない

驚きつつも、みんな華麗に避けては転がって来た白球を拾い上げた




『大丈夫か?』




おそらく何かにつまづいて転んだ衝撃で白球を散らばらせてしまったのだろう

自分もいつくかのボールを手にして、冷たいコンクリートの上に横たわっている女の子を立ち上がらせた




「す、すみません!おケガは…」

『ああ、俺はないけど…』




その女の子を立ち上がらせあげれば、女の子は深く頭を下げた




「大丈夫だったか?」

『はい。主将もケガは…』




聞き慣れた声に反応して振り返ると、そこには想像していた人物とは違った人がいて驚いた




「どうした?ケガでもしたか?」

『あ、いえ…』

「なら、よかった。ウチの部員がすまない」




あまりにも声が主将と似ていて驚いた

その人を避けるように後ろを見ると、主将は他の部員達と一緒に白球を拾い上げていた




「あぁあ、派手に転がしたね」




聞き慣れない声がして、そちらの方に顔を向ければ、ピンク色の髪をした細めの男子生徒が横から現れた




「大丈夫だった?」

「あ、はい。大丈夫みたいです」




幸いにもケガ人が出ることはなかったようで、カントクのその言葉にホッと胸をなで下ろした




『コレ、この中に入れればいいっすか?』

「あ、はい!すみません」

「手間をかけさせたな」

『いえ、大丈夫です』




手に持っていた白球をコンテナの中に入れ、主将と声が似ている人に軽く頭を下げてから、まだ拾っている部員達の元へと駆け寄った




「野球の球って結構硬いんだな」

「下手に頭に当たると死にかけないとも聞いたことがありますよ」

「凶器かよ!」




ピンク色の髪の人も加わり、転がっている白球を次々に拾い上げていく




「オイオイ、何だこりゃあ!?」

『ん?火神、何か言ったか?』

「あ?何も言ってねぇよ」

「でも、火神君の声が…」

「だから、何も言ってねぇって!」




でも、確かに火神の声だったが、声のした方角が違う気がする…

声のした方に顔を向けてみれば、そこには茶髪で目付きが少し悪く、アゴヒゲを生やした人がいた

そして、その後ろには数人が控えていた




「春乃!?もう!遅いから見に来てみれば…!」




反対方向からは、転んだ彼女と同じ格好をした人達が数人




「これで全部か?」

「そうみたいだね」




俺達が拾い上げてた分に、駆け寄ってきてくれた人達のおかげもあって、時間もかからずに全てのボールをコンテナの中にしまうことが出来た




「俺は青道高校3年の結城哲也と言う。ウチの部員が手間をかけさせてすまなかった」

「いえいえ…あ、誠凛高校2年の日向順平と言います」

「今日は練習試合か何か?」

「あ、はい…」




さっき白球を転がせてしまった春乃と呼ばれた彼女は、終始申し訳なさそうに頭を下げていた




「練習試合なのに、時間をとらせてごめんなさい。この子、ちょっとドジっ子で…」

「ああ、大丈夫です。ウチにも手のかかる奴らが多いんで…」




カントクの目線が俺達に向いていることは、この際無視しよう…




「結城さんと言う方、主将と声が似てますね」

『黒子も思った?』

「遥輝君もでしたか」

『さっき声掛けられたとき主将かと思って振り返っちまったよ』

「でも、声が似てると言ったら、あの方もですね」

『ああ、火神の声にそっくりだったな』




親兄弟ならまだしも、こんなに声の似てる人はそうそういないだろう

いや、アニメ見てても声の出演見て、あれ?この人だったの?と思うことはあるし…

まぁ、面白い体験ではあった




「体育館の場所わかる?」

「えっと…」

「ついでだし、送ってくよ」

「あ、ありがとうございます…えっと…お名前は…」

「青道高校3年の小湊亮介」

「小湊さんですね。お願いします」




小湊さんが、親切に体育館まで連れて行ってくれると言うので、お言葉に甘えることにした




「そー言えば、キミ達さっき伊佐敷と声が似てるとか言ってたよね?」

『聞こえてましたか…』

「耳はいい方でね」

「えっと…アゴヒゲが生えてた方、伊佐敷さんと、おっしゃるんですか?」




先頭を切って歩いていた小湊さんが、クルッと振り返って俺達を見ていた

小湊さんは細目だったが、会話の内容からして俺達だとわかった




「そう。俺達と同じ3年の伊佐敷純。ギャンギャン吠えるからスピッツなんて呼ばれてるけど、スピッツに失礼だよね」




表情はニッコリとしているが、言葉にトゲがある

小湊さんは、そーゆー人なのだろうか…




「あと、哲とも声が似てる人がいるんだっけ?」

「日向君ね」

「ウチの主将です」

「そうか?」

「本人は意外と気付かないものよ」




そして、小湊さんの耳は耳がいいどころか、地獄耳レベルだろう

俺達はコソコソと話している程度だったし、小湊さんとはそこそこ距離があったはずだ

それなのに、終始俺達の会話を聞いていたらしい




「へぇ。キミ、主将なんだ。じゃあ、一緒だね。哲も主将だよ。まぁ、引退したから元だけどね」




野球は夏の大会で敗退してしまったら、そこで引退なのだろう

バスケのように、冬まではないと言うことらしい




「引退しても練習はあるんですね」

「受験勉強の息抜きだよ。俺達はほとんど県外から来てる寮生だからね。それに、セレクションもあるしね」

『セレクション?』

「自分を売り込むんだよ。大学側に俺を取ってくださいって」




大学にも推薦はあるが、セレクションと言う自分を売り込む制度もあるらしい

小湊さん達は、そのために練習しているのだと言った




「さぁ、着いたよ」




そうこうしている内に、目的地であった体育館に着いた




「「『ありがとうございます!』」」

「いやいや、迷惑かけたコッチにも非があったからね」




俺達を体育館まで連れて行くと言う任務を終えた小湊さんは、手をヒラヒラと降って去って行った




「じゃあ、行くわよ!」

「「『おう!』」」




さて!

じゃあ、練習試合と行きますよか!




END
 

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