脱出せよ! 【完】

□ただいま
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『ん…』




肌に冷たさとゴツゴツした触感に違和感を覚え、目を開けてみると、どうやら私は小さな石が1面に敷き詰められている上に横たわってるようだ

ゆっくりと体を起こし、周りを見渡せば私のように横たわっている仲間達と、その脇に流れる川が目に入った




『よかった…みんないる…よね?』




お助けキャラの宮地さんと、伊月さんはいない

でも、死んだ笠松さん、大輝、火神君、そして今吉さんはいる

けど、いるだけで、死んだ仲間達が本当に生き返るかどうかは、まだ疑問だ




『先輩…!』




とりあえず、私の横で横たわっていた先輩の体を揺らした




「麻紀…?」

『よかった…』

「ここは?」

『さぁ…』

「私達、あの時職員室で死んだ…んだよね?」

『そのはずです』




でもここは、空が淡いピンクに染まり、小石と小さな川が流れているだけの空間




「昔、何かで見た三途の川みたいな所だね…」

『あ、征ちゃん!』




近くで横たわっていた征ちゃんも体を起こし、実渕さんの体を揺らしていた




「とりあえず、みんなを起こそう」

『わかりました!』




1人、1人と起こしていき、死んだ笠松さん、大輝、火神君、今吉さんの体を揺らせば、みんな体を起こした




「あれ…?」

「オレら…」

『よかった…よかった…』




あの時は冷たくピクリとも動かなかった彼らが今私の目の前でまた体を動かしている

安心した私の目からは、止まることなく涙がこぼれる




「オレらが起きたってことは…」

「全て終わったのか…?」




大輝の言葉に答えたくても涙のせいで上手く言葉が出せなくて、ただ大輝は私の頭を優しく撫でてくれた




「ってか、お前も死んだのか?情ねぇ」

「あ"?お前に言われたかねぇよ!!お前も死んだんだろ!?」

「まぁまぁ!」

「こうやってまた生き返れたんだから、いいじゃねぇか!!」

「そうでもないんだよ」




いつものように、いがみ合う2人を制したのは征ちゃんだった




「…赤司、どーゆーことだよ」

「お前達が死んだ後も、隠れた文字を全て探し出すなど、事は順調に進んでいた」

「なら…」

「全てクリア出来なかったんスよ…」

「「「え?」」」




全員が目を覚ました所で、事情を知らない4人に全てを話した

隠された文字と、モンスター全てを倒すことは出来たが、マスターの最後の足掻きのせいで1人残ることは出来なかったと…




「まぁ、そーゆーことなら、しゃーないわな…」

「どこまで底意地悪いんだ…マスターの奴!」

『ねぇ!ちょっと待って!』

「どーしたんすか?麻紀っち」

『数が足りない…』

「ん?1…2…3…ちゃんと15人いるっスよ?」

「「「っ!!」」」




リョーちゃんの言葉で数人が気付いた

1人足りないことに…




「「『海野さん…』」」

「えっ!?あ、そー言えば!」




私達は、15人でゲームをスタートさせた

しかし、途中で当初の数に含まれないお助けキャラの今吉さんが死んだことで、ここには全部で16人いるはずだ

つまり、15人と言うことは海野さんだけがいないと言うことになる




『海野さん!』

「海野さん!?」




しかし、みんなで声を上げても姿はもちろん、海野さんの反応する声さえも聞こえなかった




「彼女なら、ここにはいないよ」




海野さんの声の変わりに、少し低い、でも澄んだ声が、その場に響いた

だが、姿は見えない




「誰だ!?姿を現せ!」

「私はここだ」




大輝が声を荒げれば、私達の目の前に1人の男性が姿を現した

その男は黒く長い髪を後ろに束ね、白い着物に、白い羽織を着ていた




「誰だ、アンタ…」

「自分で言うのも何だが…私は神だ」

「「『っ!?』」」

「じゃあ、貴方がキャロルの言ってた…」

「そうだ」

『あ!キャロル!?キャロルは!?』




死ぬ前は私の肩に乗っていたキャロル

だが、今は私の肩にキャロルはいなかった




「私ならここだよ。麻紀ちゃん」




神の後ろからヒョコっと現れた1人の女性

形は違えど、白い着物を来て黒い長いウェーブのかかった髪を下ろしていた




『キ、キャロル…?』

「この姿で会うのは初めてだね」




キャロルと言う名から、外人をイメージしていたが、彼女は純日本人の形をしていた




「キャロルって名前は神様の趣味なの。人間は死ぬと戒名を与えられるでしょ?でも、それじゃあ長いから神様に仕える者は神様がまた別に名を与えて下さるの。まぁ、あだ名みたいなモノね」




キャロルは、コソコソっと私の耳元で成り行きを教えてくれた

にしても、キャロルって…




「それより神様。海野さんがここにいないのは…?」

「ああ、彼女は還るべき所に還ったよ」

「還るべき所?」

「彼女は今頃、天国へ向かう途中にいるんじゃないかな?」

『え?天国…?』




なぜ、海野さんだけ天国に行かなければならないのだろうか

あの時海野さんは私達よりも一足先に死んだだけ

それよりも先に死んだ大輝達はいるのに…




「彼女は、元々死人だったんだよ」

「「「え?」」」

「彼女が死んだのは終戦間近の時だった。当時女学生だった彼女は空襲で焼け死んでね…本来は四十九日を迎えると自動的にあの世に送られる仕組みになっているんだが、君達の言うマスターが、偽って彼女の魂をずっと自分の手元に置いてあったらしい。そのせいで、我々も今まで気付けなくてね…」




この日のために、ずっと海野さんを置いていたのかもしれないと神様は続けた




「そうだ!マスターはどこだよ!!オレ達はゲームにクリア出来なかったけど、マスターには会えるんだろうな!」

「あのヤロー…1発なぐんなきゃ気が済まねぇ」




血気盛んな大輝と火神くんは、神様に食いついた




「マスターも、ここにはいない」

「何でだよ!?」

「ここは三途の川。君達も1度は聞いたことあるだろう?」




三途の川とは、あの世とこの世を分ける世界だと昔聞いたことがある

まさか、自分がこの年齢でここに来るとは思ってもみなかったが…




「この川を挟んだ向こう側があの世だ。だから、本来であれば、神がここに来ることは出来ないんだよ。だが、私は特例として君達に謝罪をすべく来た」

「謝罪って何だよ」

「本来ここは、死んだ者のみしか来れない。三途の川だからね。しかし、君達はマスターの勝手で死んでもいないのに連れてこられてしまった。例え神であっても、そんな行為は許されないことなんだ」

「だから、マスターに変わってアンタが謝りますってか?アンタじゃなくて、マスターを連れて来いよ!アンタが来れるってことは、マスターも来れるんだろ?」

「申し訳ないが、それは出来ない」




神様は、マスターの変わりに深く頭を下げた




「さっきも言ったように、本来ならば我々とて容易にここに来ることは出来ないんだ。例え出来たとしても、来れるのは神と神に仕える従者のみ」

「マスターは神なんだろ?だったら来れるじゃねぇか!」

「確かに神であるマスターが、ここに来る事は出来る。我々も出来ることなら元凶であるマスターに直接謝らせたい。しかし、マスターが神である以上、あのマスターが再び君達に危害を与えることも出来てしまうんだ」

『私達に危害を与える?』

「君達なら、マスターと言う人物が、どう言う性格なのかはわかっているだろう?」




マスターを一言で言うなら、冷酷卑劣

私達を勝手にゲームに参加させ、持ったこともない実弾でゾンビのようなモンスターを倒させ、仲間に仲間を殺させ、私達をクリアさせないように設定を変えた




「人と言うのは、産まれる時に寿命も決まっている。しかし、稀に我々も予測出来ずに決められた寿命よりも短くなってしまってり、長くなってしまったりすることもある。そして、逆に我々神が決められた寿命を変えることもできる。だから、そう出来ないように、今マスターを神の称号を剥奪している最中だ」

『マスターが私達の寿命を減らすかもしれないってこと?』

「だから、マスターはここに来れないと…」

「そう言うことだ。神の称号を剥奪してしまえば君達の寿命を減らすことは出来ない。だが、同時に神でなくなったマスターはここには来れない」




マスターを殴りたい気持ちはあるが、マスターが神の称号を持っていることで、死ぬことになってしまっては困る

大輝と火神くんは、仕方なくイラ立ちを収めた




『と言うことは、私達は生きて帰れるんですね!?』

「もちろんだよ。その川を渡らなければね。今その手続きをしているから、少し待っててくれ」

「「「よかった…」」」




今は三途の川にいる私達だけど、あの川を渡らなければ、ちゃんと生き返れると聞いて安堵した




「あっ!宮地さんと伊月さんは!?」




宮地さんと伊月さんの姿がまだない

つまり、まだあの空間に残されていると言うことだ




「安心してくれ。もうすぐで、あの空間を壊せると言う知らせが入ったから、そろそろ来るんじゃないかな?」




その瞬間に神の横に光る二つの影が現れ、光が薄くなると宮地さんと伊月さんが現れた




「宮地さん!」

「伊月!」

「あれ?オレ達出れた?」

「よかった。まだしばらくあそこにいるのかと思った…」




これで、全員がそろった

そして、私達を現世へと返す手続きが終われば私達は帰ることが出来るんだ
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