脱出せよ! 【完】

□救いの手
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このフロア担当の真ちゃん、高尾くん、海野さん、本館の3階担当のあっくん、氷室さん、体育館担当の征ちゃん、実渕さん、奈央先輩は前から

別棟担当の私達は後ろのドアから出て行き、目的地へと向かった

2階にある渡り廊下を目指して火神くん、クロ、笠松さん、大輝、私、リョーちゃんの順で階段を登って行くが、足がやたらと重い




「大丈夫っスか?」




足取りが重い私を気づかってか、私の後ろにいたリョーちゃんが支えるように背中を押してくれた




『ご、ごめん…』

「そこは、ありがとう。っスよ」




顔を後ろに向けた私にリョーちゃんは、ニコッと笑ってくれた

私も返すように笑うけど、たぶん笑えていない

疲れなのか足はさらに重くなる

試合ほど動き回っていないのに、何試合もしたみたいに足が重い

疲れもあるけど、それだけじゃないと思う

恐怖に情けなさ、悔しさ、そんな色んな思いが私の心も体も蝕んでいく

そのせいで目に涙が溜まっていく




『(怖いよ…苦しいよ…疲れたよ…悔しいよ…)』




溜まりに溜まった涙は止まることなく流れていく

だけど、負けてられない

止まってはいけない




『(頑張んなきゃ!!)』




袖で涙を拭い前を向く

それでいいんだ

私にはまだ仲間がいる!

頼りになる仲間が!

みんなも顔に出さないだけで、私と同じ気持ちだろう

だったら、私だけ泣くなんて卑怯だ

その仲間のために私も立ち上がれ!




「…おい、疲れたのはわかるけど、あんま引っ張んなよ」





決意を改めて前を向くと、私の前を歩いていた大輝が私に顔を向けた




『ご、ごめん…足引っ張らないように頑張るよ!』

「はぁ?足じゃなくて制服の袖だよ」

『は?』

「袖?麻紀っちは何も…」




私は足は引っ張ってるかもしれないが、大輝の袖など引っ張ってない

私の左手は壁に当て、右手は恐怖心を抑えるためにスカートを握り締めている

それは当然私の後ろにいるリョーちゃんにも分かっていることで、2人で顔を見合わせた




「『っ!!?』」




大輝が言う袖に目を向ければ、そこには大輝の袖を掴む腕が見えた

しかも、あるのは掴む指からヒジまで

掴むと言うよりぶら下がっていると言った方が正確だろう

そんな光景に私とリョーちゃんは思わず抱きついた




『バカっ!!ちゃんと見ろ!!』




リョーちゃんに抱きつく私を見て、自分を引っ張ってるのは私ではないと気付いた大輝は恐る恐る自分を引っ張る袖を見た




「うわっ!!!!」




大輝は驚きつつも、その腕を早く引き剥がそうと、腕をブンブンを上下に降るが、なかなか離れない




「さっきから何を騒いでいるんです…か…って!!」




後ろでギャーギャーと騒ぐ私達に気付いたクロ、火神くん、笠松さんが振り返り、大輝の袖に掴まれた腕を見て目を丸くした




「な、何だよ!その腕!!」

「知らねーよ!!つか、手伝え!!離れねぇんだよ!!」

「い、イヤです…」

「うわ!近寄んな!!」




みんなが大輝を避けるように離れて行く




「いい加減、離れろ!!マジでっ!!」




大輝が思いっきり振り下ろすと、ベチャっと音を立てて腕が振り落とされた

そして、大輝もその腕から離れるようにクロ達の元へ寄った




「何なんだよ!アレ!!?」

「知らねーよ!!」

「腕だけなんて気味が悪いですね…」

「「『っ!!?』」」




振り落とされた腕が静かになったと思ったその瞬間に腕は指の力だけで、ほふく前進するように動き出した




「うわーーっ!!」

『イヤーーっ!!』




しかも、私達を目がけて…




「何でコッチに来るんスかぁ!!?」

『知らないよ!!』




思わず逃げた私達を追うように、腕は有り得ないほどの速さで私達を追ってくる




「ちょっ!マジ勘弁!!」

『ヤダヤダヤダ!!止めてぇーー!!』




それに伴って私達も猛ダッシュした




《待って…》




猛ダッシュしていると、真横からそんな声が聞こえた




『え?リョーちゃん何か言った?』

「え?何をっスか?」

『待って、って…』

「んなわけないじゃないっスか!こんな状況で!!」

『デスヨネ…』




猛ダッシュしながら、そんな会話をしていると、再び《待って》と言う声が聞こえる

しかし、辺りを見渡しても、この場には私とリョーちゃんしかいない

なのに、その声はしっかりと私の耳元で聞こえる




『誰…?』

「さっきから何言ってるんスか!?」




ピタッと足を止めると、数歩先を走っていたリョーちゃんは驚き、引き返して足を止めた私を再び走らそうと腕を引っ張った




『待って!』

「何でっスか!?早くしないと腕が…!!」




追ってきている腕の所在を確かめようとリョーちゃんが後ろを見ると、私の腕を引っ張ってる力を緩めた




「追ってきてない…?」




リョーちゃんのその言葉に私も後ろを振り返ると、腕は数10m先で止まっていた

私達の方を見るように…




《お願い…待って…》




また聞こえたその声は、リョーちゃんにも届いたのか、リョーちゃんは辺りを見渡すようにキョロキョロと頭を降った




『リョーちゃんにも聞こえた?』

「女の声…?」

『うん、そう…』




だが、その女のような声に聞き覚えはない…




《私の声…届いた…?》




その声は今度は後ろの方から聞こえ、振り返ればさっきまで止まっていた腕が1歩、また1歩と近づいてくる




『この声はアナタ?』




そう腕に問いかければ、《そうよ…》と聞こえ、腕はさらに近づいてくる

そして、なぜかその近づいてくるその腕にさっきのような不気味さ、恐怖はなくなっていた




「大丈夫か!?」




心配して追いかけてきたのであろう、大輝達の声が聞こえ姿が見えると、大輝達はその腕に銃を向けた




「『待って!!』」




今にもトリガーを引きそうな大輝と火神くんを止め、トリガーは引くことはないが、今もなお銃口は腕に向けられている




「待てって何でだ!?」

「その腕はお前らを!!」

『わかってるけど…でも!待って!!』




大輝と火神くんを止めながら、今度は私が腕へと近づいていく




「お、おいっ!!」

『大丈夫だよ』




心配する大輝を安心させるように、ニコッと笑い、腕の近くへ寄り、しゃがんだ

正直、大丈夫だと言う確信はない

もしかしたら、ここで腕に襲われるかもしれない

少しの恐怖を抱きながら、腕へと手を伸ばせば腕は私の手をそっと掴んだ




《ありがとう…》

『いいえ。けど、どうして私達を襲ってきたの?』

《襲おうと思ったんじゃない!!ただ…話を聞いて欲しくて…アナタ達を…助けたくて…》

『助ける?私達を?』

《そう…アナタ達を…》
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