第三弾

□あなたひとりに愛でられたい
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彼の特徴は何時だって黒いニット帽に黒い服だ。そんな彼と、どこか似ている気がする私の服装。

黒のTシャツにズボン。ああ、周りの女の子たちはあんなにも可愛い格好をしているのに、私は可愛くないのだろう。
「はあ……」
「ハーイ! ため息なんてついてどうしたの?」
「ジョディさん」
この時のわたしの顔はよほど切羽詰まっていたのだろう。
「可愛くなりたいです……」
「Why? アナタはそのままでも充分可愛いわよ?」
こんな、と泣きそうな目で訴える。
「こんな黒ばっかしの格好嫌ですよ……でも、」
「OK!」
ジョディさん、わたしの話区切るの早すぎやしませんかね。
「大丈夫よ!ワタシが可愛くして見せるわ!!」
いや、可愛くなりたいなーと訴えただけで、可愛くして下さいとは、言ってませんよ。
「ちょ、ジョディさん!?」
グイグイと手を引っ張られ、わたしは1時間ぶりの外に出た。

「あの……こんな服、着れない、というか……着たくないです」
「ダイジョーブよ、アナタ細いから似合うわ」
「いや、」
なぜわたしがこんなに服を着る事に躊躇しているかというと、ジョディさんに渡された服はヒラヒラのシフォンワンピースだ。肩が流行りのシースルーだかになっているらしい。
「は、恥ずかしいですよ」
「ごちゃごちゃ言わないの、ほら。早く着なさい」
有無を言わさず、試着室のカーテンを閉められわたしの中にある選択肢がただ一つになってしまった。着るしかない。
覚悟を決めてワンピースのチャックに手をかけた。

「着れまし、」
「Wow!! Very cute!!」
「は、はあ……あの、これ、いくら……」
「ワタシからのプレゼントよ」
そんなわけにはいかないこの洋服だってそれなりに高い筈だ。
「さあ、それでシュウに会いに行ってらっしゃい!」
「ええ! 無理!似合ってないですもん」
しゅん、と項垂れると頭上でジョディさんが笑った。
「そういうと思って、もう呼んでおいたわ」

言っている意味がわからないまま、この時期には暑いコートを羽織らされお店の外に出された。
「うわっ……っへぶ」
「くくっ……久しぶりだな。愛弓」
「赤井さん!?」
なんでここに、そう言いたかったけれどわたしの口は思う様に動いてくれなかった。
「なんでお前さんコートを羽織ってるんだ?」
「あ、これはジョディさんが……」
くるりと一周回って見せると何かに気づいたように、目を軽く開く赤井さん。
「動くなよ」
「へ、」
「…………」
「…………」
え、なに? なんなの、これ。ゴソゴソとわたしの首当たりを漁る赤井さん。
「あ、かいさん。擽ったいですよ……ひゃっ」

そういえばここ歩道の真ん中だ。そう思い赤井さんの方に向き直ると、息がかかりそうなほどに近くにいる赤井さん。
「っ!?」
「……取れた」
「は?」
思わず間抜けな声が出た事を許して欲しい。だって、キスされる、そう思って目を閉じたわたしが馬鹿みたいじゃないか。てか、なに期待してんの。もう。
「どうした? キスでもされるかと思ったか?」
くつくつと笑う赤井さんを睨みつける。
「全然! 全くそんなこと思ってま……」
せん、そう言おうと思ったら誘拐犯の如くわたしを車に詰めた。
「あ、赤井さん?」
「その服、中々に可愛いな」
「これ、ジョディさんが買ってくれたんです」
「ホォー……ジョディが。中々いいセンスをしているな」
思わず、とそこで言葉が区切られて車のシートにやんわりと倒される。
「んっ、」
「…………キスしたくなる」
「っ……ばか」
不意打ちにキスに、顔が茹でたタコみたいに熱くなる。頬をすり、と撫でられた。

ああ、この人のことが本当に好きなんだ。わたし。

(あなた一人に愛でられたい)

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