第四弾

□危うく恋するところでした
1ページ/1ページ

からんからん、とドアの開閉のベルが鳴って来客が来たことを知らせた。私は飲みかけのグラスを置いてふと客を見てうわ、と少なからず動揺した。銀髪の長い髪を靡かせて煙草をくわえている長身の男。一応私の仲間だ。
とあるバーにいるのだが、まさか彼もここに来ているなんて思ってなかった。これからは場所を変えなくてはいけない。運悪く彼と目が合ってしまった。

「ちょっと、なんで隣に座ってくるの?」

ずかずかと歩いてきて空席はあるというのにわざわざそいつは私の横の椅子に座ってきた。ただでさえ長身で体格がいいのに隣なんかに座られると圧迫感が強い。

「てめぇがこんなところにいるとはな…」
「……それはこっちの台詞だよ」

彼は私の不満を無視してそこから動かない。かといって私が席を変わるのもなんだか釈だ。
この男、ジンの印象といえばヘビースモーカー、女遊びときたもんだ。あまり好きではなく、できれば関わりたくない存在だと私は思っている。それなのにジンは私に会うたびに何かと絡んでくるのだ。私まで女遊びの的になられるなんてごめんだ。

「…フン、ホワイトキュラソーか」

ジンは私が飲んでるグラスを見てそう言った。彼はというとバーテンダーにドライジンを頼んでいる。

「なによ、何か文句あるの?あんただって自分の酒頼むなんて自己主張の激しい奴だね」
「はっ、こいつ良さも知らねぇくせに…」
「うるさいな、苦いのは無理なの」

くそ、まるで子ども扱いだ。こんな男のコードネームとして付けられてる酒なんて飲みたくもない。
彼を一瞥して自分のグラスを煽る。甘い味が口に広がる。だがそれは彼の煙草の煙で掻き消された。

「もう、私の横で煙草吸うのやめてよ、キュラソーの味が台無し」

煙を吸ってしまってゲホゲホと咳をして気管が拒否のサインを出す。漂う煙を手で払った。ジンは隣でクククと笑って灰皿に煙草を押し当てる。バーテンダーが彼の元へ頼んだものを置いた。

「なぁ、ドライジンとホワイトキュラソーで出来るモノ、知ってるか?」

ドライジンを煽りながら、彼はニヤリと笑って聞いてくる。一体何を言っているんだ。

「……そんなの、ホワイトレディに、…?!」

口直しに再びキュラソーを飲みながら彼の方を見たのが間違いだった。横を向いたら彼が顔を近づけていて、グラスを持つ私の右手首を掴んでくる。

ま、まさかこいつ…!

嫌な予感がして席を離れようとするが掴まれている手と更にもう片腕で左肩から後頭部を固定されてどうにもできなかった。
そうして唇を重ねられ、直様ジンの舌が私の口をこじ開けてくる。

「…、ちょ…っふ、ん…!」

抗議の声を上げるが彼は口角を上げて舌を絡めてくる。広がるのはキュラソーの甘い味と、彼のジンの味。それに微かに煙草の味も混ざって最高にまずい。離れたいのに離してくれなくて、後頭部に回る手が、厭らしく背中を撫でてきてびくりと身体が震えた。ここには私たちだけじゃなくて他の客だってバーテンダーだっているのに、こんなのひどい。

「…クク、どうだ?ホワイトレディの味は」
「……さ、最低!」

やっと離されたときには私は息も切れ切れだ。顔だけではなく身体全体熱くなってるのがわかる。何とか悪態を付くのがやっとだ。ニヤニヤと笑ってくるこの男が心底嫌だ。

でも何が一番嫌って、こんなことされてドキドキして顔真っ赤にしてる自分だよ!もう!最悪だよ!


危うく恋するところでした


(どうせ私以外の女にもこんなことしてるんでしょ)(俺はどうでもいい女にキスなんかしねぇよ)(…そんな思わせぶり、信じないから)

ありがちな話になってしまいました。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ