第四弾

□彼はいつだって幸せに怯えている
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※捏造あり
※秀明表現あり




赤井秀一が、幸せというものに怯えていると感じたのは彼に告白をした時だった。返事はNOであり、そんなに期待していたわけではなかったが、彼と同期で付き合いもそれなりに長いだけにやはり気落ちはした。だけど、そのNOの返事の彼の言葉の続きで疑問に思う節があった。

『お前からそう言われるのは嬉しいが、お前は俺よりもずっといい奴がいるさ』

彼は過去2人の女性と関係を持っていた。1人は仕事の同僚、もう1人は敵の組織に潜入するために利用した組織の末端の女だ。後者の女は彼がスパイであることがバレて殺された。言い換えると彼と関わった故に殺されたと言ってもいいだろう。彼にトラウマを植え付けてしまった出来事である。彼女が殺されてそれなりの時間は経ったが、今でも何度か携帯のメールを見ていることを私は知っている。おそらく今でもその彼女を想っているのだろうし、だからこそ私を遠ざけようとそう言ったのかもしれないが、どうにも引っかかってしまうのだ。
そこで冒頭の考えに至る。私は二度目の告白を決意した。何故ならそんな彼に幸せを感じてほしいと思ったからだ。
自分と関わると相手を不幸せにしてしまうと思っている、強そうでいて、心はとても臆病で弱いそんな彼に。
私は陰ながらFBIに入った時からずっと彼を見守ってきたのだから。

「秀一、私と付き合って」
「…………」

オフィスの屋上で、私はこの前と同じ台詞を言う。彼は一度目を瞬き、困惑と言ったような表情をしている。

「この前も言ったが…、」
「あれは私の覚悟と思いが足りなかったの。だからもう一回言わせてもらうわ」

私は彼のエメラルドの両目をしっかりと見た。戸惑いに揺れる彼の両目には決意を露わにした自分が映っている。

「私には秀一以上のいい奴なんかいないし、別にあんたが私を好きじゃなくてもいいのよ。前の彼女を想うあんたも含めて好きだからね。私はね、秀一が幸せになれたらいいんだ」
「…俺が、お前のことをそんな理由で振ったと思ってるのか?」
「まぁ、三分の一程度にはそう思ったけど。ただ、私はあんたと関わると不幸せになる、なんて考えを持ってるならそんな考えは捨てろと言ってるの」

そう言うと秀一は何か強く言いたそうな顔をして私の肩を掴んだ。

「あの女の二の舞に、させたくないんだ。俺が奴らを追ってる以上、お前は幸せにはなれない」
「私も奴らを追う1人よ。私の幸せなんてどうでもいいし、私の幸せは秀一が幸せになることなの!」
「ふざけるな…俺には幸せになる資格などないし、お前の幸せを俺のような奴に捧げるな…!」

どうしてわかってくれないのか、私が声を荒げると、彼も珍しく声を荒げてそう訴える。掴まれてる肩が痛い。
そう言われて思い浮かんだのは死んでいった彼女の顔だ。

「…はぁ、今の言葉、宮野さんが聞いたらどう思うだろうね」
「……何?」
「言いたくなかったけど、宮野さんとはちょっとした面識があってね」

そう、私は秀一が偽名を使って彼女、宮野明美と付き合い出して少し経ち、彼女に惹かれていると知った頃、本当に彼の彼女となる度量があるのか確かめるために大胆にも彼の友人と名乗って彼女と話したことがあった。今思えば本当に危ない橋を渡ったと思う。

***

『大くんは優しくて、誰よりも人の幸せを願ってる人ね』
『やっぱりそう感じるのね。貴女は彼のどこが好きなの?』
『そうね、とても危なかしくて、放っておけないところかしら。彼、強く見せて、本当は弱い所があるから、1人にさせられないわ』

そう言われて私は彼女を認めざるを得なかった。私が感じてることをこの人もわかっている。彼女なら、大丈夫だと、そう思った。

『彼を幸せにしてね』
『勿論。私は彼と付き合えて幸せだもの』

***

「………、」

あれから間もなく真実がばれて彼女は死んでしまったけど。もしかしたら彼女はあの時から彼がFBI捜査官で、私のことも、わかっていたのかもしれない。私が彼を想っていることを。
それを聞く秀一は信じられないような顔をして私を見る。

「あんたと付き合えて幸せだって、あの人はそう思ってたの。結果はああなっちゃったけど、絶対後悔はしてないと思うな」

笑顔で答えた宮野明美のあの時の顔を思い出して、泣きたくもないのに自然と涙が溢れた。

「あの人を幸せにしたかったんでしょ?」
「……!」

頬に伝う涙も構わず私は彼を見つめる。
彼の眼が、理性と戦うようにゆらゆらと燃えている。肩を掴む指が震え、そんな彼の手を、私はそっと自分の手を乗せた。

「あの人ができなかったこと、私がしたいんだ…私のこと、あの人の代わりとしてでもいい。私は秀一を幸せにしたいの」
「…何故、そうまでして……」
「私はね、ずっと前から秀一を見てたから…もうずっと前から好きだったのさ、多分」

秀一のもう片方の指が私の濡れる頬に触れる。
それが心地いいと思いながら、もう1つ伝えたい事を話す。

「だから、あんたと関わって不幸せになるだなんて思わないで。私は秀一とずっといるけど、幸せだから」
「…愛弓、」

彼はついに私を抱きしめた。彼の大きい腕に包まれて、本当に幸せだと、背中に腕を回す。

「二つ言わせてくれないか」
「なに?」
「お前は、あの女の代わりではない…お前以上の女はいないよ」
「…そっか」
「それと、」

ーー俺にもお前を幸せにする権利をくれ

耳元でそう囁やかれ、長年の思いがやっと叶ったのを感じて、やはり涙が止まらなかった。




彼はいつだって幸せに怯えている




(とっくに幸せだよ)

補足をすると彼もヒロインのことをただの同僚だとは思ってはなく、付き合いが長い大事な存在だと感じていたんじゃないかと思います。ありがとうございました!

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