ウミガメのスープを召し上がれ

□魔法の鏡
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『鏡よ鏡』











ここに閉じ込められてどれぐらい経ったのだろう。




暗く閉じた部屋では太陽がいつ上っているかなんてわからないし、クラスメイトも学校そっちのけでオレたちと一緒にいた。





ただその日数をなんとなく実感させるのは食事の回数だった。






クラスメイトはスタンド使いだったようで、その能力は他人のスタンド能力の制御。



オレのクレイジーダイヤモンドは治療用にしか使えないし、億泰のザ・ハンドなんて姿も出せない。






オレのスタンドはオレ自身を治せない。



ウミガメのスープのために犠牲になるのは決まって億泰だった。






吉良の攻撃で治療不可能まで爆散した身体が治療できるように、たとえその肉体の一部が彼女の体内に入り、その血肉になろうが億泰の身体は治すことができた。



何度でも。



そう、何度も治した。






彼女は食事のたびにウミガメのスープを欲したのだった。







億泰の身体は何度もあの鉈で断たれた。



腕、足、腹、内臓、肩、顔、目玉。




彼女は億泰のあらゆるところを断ち切った。






その回数と閉じ込められてからの日数の経過は彼女の鉈についた錆と血と脂、壁に模様を作る赤黒い血、そしてこの部屋に染みついた異様な腐敗臭が物語っていた。







唯一救いだったのは、オレと億泰の食事はウミガメのスープではなく、ちゃんとしたご飯が出てきたことだった。




彼女はもったいないからね、と美味しそうにハンバーガーを頬張った。




ウミガメのスープはもはやスープ以外の調理法で彼女の血肉となっていた。








億泰は日に日に衰弱していった。





そりゃあそうだ。



毎日、自分の身体が断ち切られ、それを目の前で調理され、先日までただのクラスメイトだった女が美味しそうに頬張るのだ。








それでも億泰はまだ抵抗していた。




鉈を持ち出す彼女にありったけの罵詈雑言を浴びせ、暴れた。









そんな日が何日続いたのだろうか。






「パンを切らせちゃったわ。」




彼女は学校を休みながらも、オレたちの食材をたまに買いに街に出る。







その日も彼女はスーパーに向かった。




往復で15分程度の買い物である。









「なぁ、仗助…。」




億泰は彼女が出てしばらく経ってからつぶやいた。







「今日、鍵かけた音したか?」





いつも玄関で彼女はいくつも鍵をかけて出ていく。




確かに今日はその音を聞いた気がしない。








「実はよ…仗助ェー。」





億泰は手に繋がれた手錠をいとも簡単に外した。







「だいぶ前に解いてたんだけどよォー、出れるタイミング探しててよォ〜、これってチャンスだろォ?」






億泰の笑顔を久しぶりに見た。




億泰はオレの手錠を外そうとしたが、なかなかとれない。






「もうすぐアイツが戻っちまう…!オレ、助けを呼んでくるから待ってろ!」







億泰は玄関に駆け出した。




その後ろ姿は明らかに以前よりやつれていた。











億泰が玄関のドアをあけたのだろう。




白い光がオレにも見えた。








そして次の瞬間、




「出ちゃダメよ?」






冷たい声とともに、億泰がオレのところまで吹っ飛ばされ戻ってきた。







玄関の白い光がだんだん細くなって、完全になくなる。





アイツがひょっこりと顔を出した。






買い物に出たはずの彼女の腕には買い物袋は下がっていない。




瞬間的にオレと億泰はただ試されたのだと悟った。









「虹村君、最近痩せてきたから、食べごたえがないの。」





しょんぼりと告げる彼女の手にはあの忌々しい鉈が握られている。








「ねぇ、虹村君、玄関にあった鏡で自分の姿見た?」





彼女は部屋の片隅から全身が移る鏡を持ってきた。






「こんなにやつれて、かわいそう。」






そうして彼女は億泰に鏡を向けた。







そこには、もう逃げる意思も失った男のうつろな顔が写されていた。
































あれから億泰はよく食うようになったし、よくしゃべるようになった。



少なくとも健康なのだ。



体は。










「今日は右腕を出して。虹村君。」







悪魔のような女がほほ笑むと億泰はその右手をなんの抵抗もなく、差し出す。









肉と骨が断ち切られる音と生臭い臭いが充満するが、億泰は顔色一つ変えなかった。










彼女はフードプロセッサーでその腕を細かくする。









億泰は笑った。






「今日の飯、楽しみだなァ、仗助〜。」










あの日以来、億泰の飯もウミガメのスープになった。






億泰はきっと鏡で自分の姿をとらえたとき、心を壊してしまったのだ。





















ウミガメのスープを召し上がれ

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