短編

□浮遊系ガール
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「お前さァ〜、いつまでいるんだよ。」




オレは部屋の片隅で寝っ転がる彼女に声をかけた。





高校の同級生である彼女は別段スタンド使いとかじゃないし、なんならそんなに仲良しというわけじゃなかった。


たしか億泰とは仲良かった気がするけどよ。





そんな彼女は二十歳も越え、就職したオレの家、オレの部屋に居座っている。





朝はオレが仕事に向かうのを見届け、帰るとクッションを抱いてだらだらしている。






就職したてのオレは部屋に帰るとほぼ面識のない同級生がヒモのようにだらだらとしているという不思議な生活を送っていた。







「どんな仕事してるの、東方君?」



「ケーサツカンだよ。」





ぶっきらぼうに答えると、花子は警察官かぁと目を輝かせた。





「お前は無職なの?」



「うーん、デザイナーしてたんだけどねぇ…」






インスピレーションが沸かなくなっちゃったのよと苦笑する彼女はクッションに顔をうずめた。




オレのお気に入りのクッションは今はもう完全に彼女のものである。






高校時代のときは黒髪だった彼女は社会人になって髪を栗色に染めていた。


それは似合わない栗色ではなく、少し大人びた彼女にはしっかりと似合っていて、さすがデザイナーというだけのセンスを感じた。







栗色の髪から香る甘い匂いに少しどぎまぎしてしまって、少し頬が火照った。








「仗助君て変わらないね!」




何が楽しいのかオレの部屋で彼女はふふふと笑った。






そうして彼女がオレの部屋にいる生活が一ヶ月ほど続いた。





そんなある日、オレは仕事でミスをして、犯人を逃がしてしまった。








「こりゃあえらーく荒れて帰ってきたね…。」





ビールの缶を大量にさげて帰ってきたオレに花子は苦笑いをした。







「お前も飲めよ。」




「いやぁー私はさ…。」




「どうせオレの部屋で寝そべってるだけなんだしやけ酒ぐらい付き合えよ。」






オレは二缶開けるが、花子は困ったような顔で缶を持つことはなかった。








「今日は仕事でよくないことあったの?」




おそるおそるといった感じで聞いてくる花子は眉を八の字にしていた。






「……なぁ、花子…。」






オレは缶ビールを半分ほど一気に飲んで、花子を見つめた。







「お前、なんでここにいるんだよ…。」






花子の体は半分透けて、オレの部屋の風景を写していた。







困ったように花子は笑う。




この顔をこの数ヶ月で何度見ただろう。





だが、彼女の体はこの部屋にはないのだ。







「億泰から、お前が刺されて意識不明って聞いた日からお前ずっとここにいるよな…。」






彼女は今、病院で眠っているのだ。



いわゆる植物状態というやつだ。






「なんかね、傷づいたら東方君の家にいたの…。変でしょう?これって幽体離脱?生霊ってやつ?」






彼女はオレ以外に認知できないし、何も食べないし何も飲まない。




もしかしたらオレの妄想なのかもしれない。





でも、高校時代は遠くにあった彼女の表情は今、こんなに近くて、見たことないような顔もたくさん見た。







「早く起きろよ…もう起きられなくなっちまうぞ…!」




「それがわかんなくて…」




「オレがお前刺した犯人捕まえたら起きてくれるのかもしれないって思って、ずっと犯人追ってるんだけど今日も逃げられて…」



「東方君…」







オレは残りのビールを一気に飲んで、花子の肩を掴む。




手は空しく空を切る。








「お前…起きろよ…!億泰がどれだけ心配してるか知ってんのか!?康一も、由花子も、みんな心配してんだ!!なんでほとんど関わりのなかったオレの目の前に出てくるんだよ!!!なんで起きようとしないんだよ!!!!!」






取り乱したオレに花子は目を丸くして驚いていたが、そうだねとつぶやいた。







オレはなんだかやりきれなくなってそのまま眠った。







「ありがとう東方君…。」




花子の声が聞こえた。












翌朝起きると部屋に花子の姿はなくて、オレの妄想かよとちょっと笑っちまった。




出勤すると、前日に追い詰めた犯人が自首してきて、まぁ一件落着ってわけだ。





こうして一週間たった。






今日もオレは部屋に帰る。



そういえば億泰から今日は電話がたくさんかかってきたが、業務中だから無視してたな。



かけなおさねーと。






そう思って部屋のドアをあけると、部屋にはクッションに顔をうずめてだらだらとしているヒモがいた。






「おかえり、東方君。」




にへらと笑う彼女は、栗色の髪を揺らして起き上がる。










「いやー、起きて退院できたはいいけどさー、東方君の家の場所わからなくてすっごく探したー。」




困ったように笑う彼女をオレはぎゅっと抱きしめた。

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