短編

□僕の意識を呑む
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普段あまり買わない雑誌を手に取ったのはやはりリアリティの追求のためであり、ページを捲ると花子がでかでかと写っていたときは思わずむせた。




先日たまたま再会した花子は小学校時代のやんちゃぶりは身を潜め、大人びた女性となっていた。


まぁ、見た目のみだが。


中身はあのままだった。





初恋の相手に再会した僕は柄にもなく、ちゃっかりと彼女に口づけしたわけなのだが、唇を離した瞬間にひっぱたかれ、それ以来だ。




嫌なら最初から拒否しておけと思うものなのだが、女心は難しいらしい。


彼女はぷりぷりと怒ったまま、僕らは別れたわけだ。





そんな先日の顔を真っ赤にし怒っている、記憶の中の花子と雑誌の中の女を重ね合わせた。


同一人物。



どうやら花子はモデルかなにかをやっているらしい。




先日見たときの派手なオレンジのピアスを思い出す。



僕も大概派手なイヤリングをしているつもりだが、オレンジの輪切りを模したあのピアスはあまりにも派手すぎて驚いたものだ。



なるほどモデルならあの奇抜なファッションも納得できるものだ。





僕は勝手に納得して、雑誌をぱたりと閉じた。






───なんていうのは数時間前のことである。



僕の目の前には僕の担当編集、モデルのマネージャーという男、そしてモデルである花子が座っていた。




「どういうことだよ?」



僕は眉をひそめながら、担当編集を睨み付けた。


急遽、打ち合わせを入れてくれなんて頼むから予定をあけたらこれだ。




「実はですね、海外の洋服ブランドがモデルにこちらの山田花子さんと先生の作品を起用したいとですね…」



「断る。僕は漫画家だぞ?漫画以外は描かない。」



「先生!!お願いしますよォ〜!!!!」




ペコペコ頭を下げる担当を横目に、花子を見ると明らかに気まずそうに客人用に出した紅茶を見つめている。




「大体さァ〜、モデルとイラストの器用って言うけどモデルがいるなら僕のイラストは必要か?僕の絵は他の何かとコラボレーションしなきゃあいけないほどちんけなモンじゃないんでね。そこのモデルだけ載せればいい話だろ。」



僕はそう言って花子を指差すと、人差し指を掴まれた。


花子だ。



驚いて目を丸くしていると、花子は鬼のような形相で人差し指を逆方向に曲げてきた。



「人を指差さないで!!!失礼よ!!!!」



「お前こそ漫画家の指を曲げるんじゃない!!!商売道具だ!!!!」




手を振り払い、睨み合う。



周りでおろおろする担当とマネージャー。


お前ら無能か。





「とりあえず僕はそんな仕事しないからな!!!出ていってくれ!!!」



「仕事を断るなんてひっくいプロ意識ね!!!」



「言っておけ、僕は自分の信念を持った上で仕事を選ぶだけだ。」





花子とマネージャーをつまみだすと、家には僕と担当の二人になった。



「君もいつまでここにいるつもりだ?」



担当に出ていけと言うと、担当はしょんぼりと書類をまとめ始めた。




「もともとこの企画の起用はあの山田さんっていうモデルのみだったんですよ。」



急に始まった話に僕はカップを片付けながら耳をかたむけた。




「山田さんが先生の絵がこのモデルには必要だって言い張って今回の企画が通ったんですよ。3ヶ月ぐらいずっと山田さんが先生をごり押ししてたらしくて。」



3ヶ月ということは僕と再会する前からということだ。


少し驚いた。




「山田さん、先生の作品のファンらしくて、漫画も集めて、漫画家になる前に描いてらっしゃった風景画とかも持ってらっしゃるぐらいに先生の絵に惚れてるらしくて…」



「ちょっと待った。漫画を集めていると言ったか?」



「はい。」





僕は先日花子に会ったときのことを思い出す。



漫画読んでないって言ってなかったか。


どっちが本当かわかったもんじゃないがとんだ嘘吐きじゃないかと僕はため息をついた。





「花子の連絡先…わかるか?」















担当が帰った後、電話をとった。



コール音がしばらく鳴ってからかちゃりと音がする。




『もしもしー?』



「もしもし、花子か?僕だ。」




電話の相手はしばらく黙ったままだったが、ぷっと吹き出す声が聞こえた。





『露伴ちゃん、僕だって言われてもわかんないよ。』



カラカラと笑いながら話す花子に先ほどの冷たさや威圧感はなかった。





「わかってるじゃないか。本当にお前はとんだ嘘吐きだな。」



『そんな嘘ついたことないでしょー?』



「……さっきの仕事だけどさ…」



『あっ!さっきはごめんね!!露伴ちゃんも真剣にお仕事してるのに本業じゃないことさせようとして…なんだか恥ずかしいや…。』




明らかにしょげたような声が聴こえてきて、僕はわざとらしく一つ大きなため息をついた。





「オイオイオイ、僕はまだ何も言ってないぞ?君の家にFAXはあるか?」



『まぁあるにはあるけど…』



「教えてくれ。いくつかパターンを描いたから送る。」



『え?』





すっとんきょうな声に思わず頬が緩んだ。




「僕が仕事を受けてやるって言ってるんだ。有り難く思えよォ〜?なァ?」



『えっ!?なんで!!?うそっ!!!?』



キャアキャア騒ぐ高い声が電話越しに耳がいたい。




「花子、聞きたいことがいくつかあるんだが、この際聞いていいか?」



『なに?今なら何でも答えちゃいそう!』




嬉しさを声に滲ませる花子。

姿は見えないが、喜ぶ顔が目に浮かんだ。




「君、僕の作品読んでないって嘘だろ?」



『バレた?』




花子はファンですっていうの恥ずかしいじゃない、とからから笑う。


そのわりに案外あっさり言うもんだ。





「…あとさ、僕のこと好きか?」



からからと笑っていた声がぴたりと止んだ。




『…急にどうしたの…?』



「電話越しでも声色で顔わかるって僕は大概君のことが好きだと思うんだが…よければ今から会えないか…?」





慣れない告白に顔が真っ赤になるのを感じた。



僕も大概君に首ったけらしい。

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