それは何色。

□34話
1ページ/1ページ




仗助君が切羽詰まった様子で岸辺家を訪れたのは2時間ほど前のことになる。





余裕がなさそうな顔で

「絶対にこの家を出るな」


と告げて、億泰を置いて走って出ていった。





あんな余裕のない仗助君はなかなか見ることができないだろう。



どうせなら私が何かいたずらして、あの顔をさせたかった。





我ながら、何を思ってるんだかと自嘲してしまう。








仗助君は私に事情を話さなかった。



私には頼れという癖に私に頼ってこないあたりが彼らしいというかなんというか。







「億泰、そんなに監視しなくても私は消えてなくなりはしないわ。」




「仗助の野郎からよォ〜く見張っておけって言われてんだよ。」




「用心深いことね。」






見つめられて穴が開きそうよと笑うと億泰はちょっと顔を赤らめた。





「どうせ私関連の何かで仗助君は駆けずりまわってるんでしょう?」




「そ、そんな事ねーよ。」




「いいのよ。別にそれで外に出ることはないわ。」







私はクスクス笑うのを止めれなかった。




億泰の嘘はわかりやすすぎる。







「白馬の王子様が悪い魔法使いを退治して迎えに来てくれるのを待つわ。」




「童話みてーだなァ〜それ。」




「童話…ね。」







昔読んだ絵本はどんな話だっただろうか。




王子に手を引かれ、今まで触れ合うことのなかった世界をその目に写した少女は…









「思い出せないのよね…。」




「何がだ?」




「昔読んだ童話の続き。」








ころころと変わる話題に億泰はちょっと困ったように頭をぼりぼりとかいていた。







「まぁそんなのどうでもいいのだけれど…」








窓の外はこの何とも言えない心模様を表したようにどんよりとしていた。






どうして絵本のことを思い出すのだろうか。







仗助君、貴方は私を救ってくれるのかしら。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ