それは何色。
□33話
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「ここ最近なんかおかしくねーか?」
夏休みになっても相変わらず顔を合わせる仗助君の顔色が悪かったのは、ある日の昼下がりだった。
夏休みも半分ほどがすぎ、宿題に全く手を付けていない僕、広瀬康一は最近は由花子さんとのデートももっぱら勉強会になりつつある。
もちろん電気椅子などは使用しない形だ。
仗助君に呼び出されたその日はここ最近ではめずらしく曇った空が広がっていて、なんだか心もどんよりとさせた。
いつものカフェにいたのは、仗助君本人と噴上裕也君だった。
億泰君の姿が見えないのはめずらしいなと思いながら、僕はチョコレートパフェを頬張った。
なんだか今日はカフェのあらゆる席がおしゃべりを楽しんでいるようで、店内はざわざわしていた。
「おかしいって何が?このメンツ?」
裕也君と僕は実はそんなにしかり接点があるワケでもなくて、実は仗助君がいないと会話しずらいという裏話がある。
そう思ってるのは多分裕也君も同じで、彼も先ほどから黙ってコーラを飲んでいた。
「そうじゃなくてよォ〜…なんつーか最近の町の雰囲気っつーかよォ…。」
顔をしかめて仗助君が頭をかいている。
何を言ってるんだろと思っていると、仗助君は露伴から聞いた話だからオレもわかってなくて、と言い始めた。
なんだそりゃ。
仗助君はしどろもどろに説明を始めた。
「露伴のやつ、原稿の受け渡しとかでよく喫茶店にはいるらしいんだけど、最近喫茶店のお客が多いらしいんだ。これだったらただのブームとか流行りじゃねぇのって話で終わるんだけどよ…よくよくお客の会話を聞いたら、内緒話してるらしいんだ。」
「内緒話?」
人の話を立ち聞きなんて感心しないけれど、まぁ露伴先生だしな〜。
仗助君は話を進める。
「みんなが内緒話してるっておかしくねーか?しかも、その内容が徹底されてんだってよ。今日、お前らを喫茶店に呼んだのもそれが理由なんだ。耳澄まして周りの話を聞いてみろ。」
盗聴の趣味はないのだが、僕たちはなんとなく聞き耳を立てる。
「あのね…これ、内緒の話だよ…?」
ついさっき僕らの後ろの席についた女の子二人組がきゃっきゃと話している。
「西雲神社っていう、山の上の神社知ってる?」
「もうぼろぼろで人がいないところでしょう?」
「そうそう。西雲神社に祀ってあったほら貝がこの前、なくなったんだって〜?」
「そんなのあったの〜?ていうかなんで貝?」
「そこまで知らないんだけど、その貝盗んだ犯人がね、この町に住んでる女の子らしいの。」
「女の子?」
「白い髪の毛の女子高生なんだって〜。」
ここまで聞いてぞっとした。
白い髪の女子高生なんてこの世に何人もいるもんじゃない。
そしてその条件を満たす人物は僕らの知り合いで一人いる。
田中花子。
彼女は白髪の女子高生である。
「オレが思うに、この貝ってよォ、夏の別荘で見た、承太郎さんが引き込まれた貝なんじゃないかって思ってる。」
僕は別荘で承太郎さん、億泰君、花子さんがいなくなったときのことを思い出していた。
あの貝は結局誰も触れず、あの場所においてきた。
「でも、白髪の女子高生、少なくとも花子は盗んでねーと思うんだ。あの貝を対処したときの反応を見る限りだけどよ。」
承太郎さんがいなくなったとき、誰よりも必死に探していたのは花子さんだったと僕も思う。
じゃあ、誰が何のためにあの貝をあの場に用意して、何のためにこの噂を流しているのだろう。
「オレ、その貝ってのは見てねーけどよ。」
今まで黙っていた裕也君が話し出した。
「人って噂が大好きで、ある程度広まった噂ならそんなことあるかよっていうぐらいの突拍子のない話でも信じるんだ。白髪の女子高生、つまり花子を見たら噂を知ってるやつはアイツが貝を盗んだと信じる。」
そこから裕也君は一瞬黙った。
「正義感って誰にでもあるだろ?例えば溝ネズミよりも醜悪な巨悪であっても、ゴミの分別ぐらいするし、交通ルールは守る。そんな当たり前のモラルと同じ程度の正義感が集まったとき、ほら貝を奪った犯人とされる花子を見たらどうすると思う?」
僕と仗助君は何も返さなかった。
間違いなく花子さんが悪としてつるし上げられ、社会悪として殺される。
今の過剰な噂の出回り方を見ていて、そうなってもおかしくない現状に僕たちは薄々感づいている。
「一応今、花子は露伴の野郎にお願いして、外に出ないように言ってるし、億泰に護衛代わりについてもらってる。」
仗助君は重々しく口を開いた。
「今から、一緒に噂の打開、お前らにお願いしていいか?」
「宛はあんのかよ?」
裕也君は花子かわいかったし手伝ってやると仕方なさそうに立ち上がった。
多分彼なりの照れ隠しだろう。
「宛なら、作れる。」
あんまし会いたくねーがとため息をつく仗助君に合点がいった。
「杜王グランドホテルまで行くんだね。」
噂を断つにはその根を絶たなくてはならない。
その根を探せるのは
「ジョースターさんに会いに行くか…。」
仗助君は重々しそうなため息をついた。