それは何色。

□32話
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「ねぇ、知ってる…これ、秘密の話なんだけど…。」



































学生の夏休みというのは案外短いものだ。



この期間の間に教員から押し付けられた宿題をこなし、青春を謳歌するというのはなかなかハードなことである。




だというのに。






「まぁ、僕にとっちゃいつでも休みだけどな。」




「休みなんでしたら少しは家事をしたらどうでしょうか?」




「オイオイオイオイ〜、僕は家事をしなくて済むように君を雇って、住ませてやってるんだぞ?」




「私だってせめてボーイフレンドが来た時ぐらいは遊びたいわ。」




「安心していい。お前のボーイフレンドはすぐに追いだす。」







まるで威嚇するかのごとく露伴の野郎はオレをにらみつけてきた。




花子をデートに行こうと誘いにきたらまさかのアルバイトという名の強制業務で花子は忙しそうだった。






露伴の家に住み込み家政婦として住み着いている花子が多忙なのは仕方がないことなのだが、どう考えても今回の多忙は悪意を感じる。




オレが遊びに誘いにきてから露伴は花子に用事を頼み続けている。








「大人げねーって言葉をアンタは知ってんのかァ〜?露伴先生よォ〜?」




「僕がいつ自分の雇った家政婦に何をさせようと僕の自由だろう?なぁ、東方仗助?」






オレと露伴の間にバチバチと火花がとぶが、花子は全く構わずに淡々と家事をこなす。






「岸部先生、その言い方だと業務内容として私に何してもいいことになってるわよ?」




家事をしながら花子はにっこり笑う。




「たとえばエッチなアレソレでもしていいことになっちゃうわね?」






髪をポニーテールに束ねる花子のうなじが眩しい。





「お前…岸部露伴…まさか…!?」



「ふざけるな。僕はあんな得体のしれない女興味ないぞ。」



「得体しれないってなんだよ!?花子はめちゃくちゃ可愛いオレの彼女だぞ!?」




「こっちに詰め寄るな暑苦しい!」






お前も仗助をけしかけるんじゃないと露伴は花子を睨む。




花子はくすっと笑った。




それさえかわいいし、もうけしかけられててもいいかなァ〜、なんて思っちまう今日この頃だ。








「岸部先生、終わったわよ。もう出かけてもいいかしら?」





ポニーテールを解いた花子にはもう用事を言いつけるんじゃないと無言の威圧感を感じる。






露伴はため息をついてメモを花子に渡す。








「晩御飯は19時半。間に合えばそれまでに何をしようが勝手だ。」





「ありがとう。」









花子は出会った当初よりもしっかり笑って、人とかかわりをもつようになった。





出会った時の希薄な、消えてしまいそうな透明感は他者を寄せ付けなかったし、まさか露伴と共同生活を営むことになるとはだれもが思っていなかっただろう。





承太郎さんと花子が仲良しなのはわりとオレとしては驚いたことで、まさか真っ先に花子が承太郎さんと打ち解けるとは思っていなかったのだ。








そしてその態度の変化はもちろんオレに対してもである。





今まで通り、仗助君と呼ぶその声は変わらないが、表情は以前より朗らかで、たまにスキンシップも交える。



まぁたまにオレがうろたえるのが楽しいのか、過激なスキンシップが交えられるのが、オレとしてはなんていうか、嬉しいけど、微妙な気分になるんだけどよ…。







花子の、オレへの復讐のための、偽物であったこの関係は今は、少しでも本物に近づいているのだろうか。








「このままオレのこと好きになってくれたらいいのに…。」





「なにか言った?」






夏の日差しと花子は眩しくてくらくらしそうだった。






「いいや、別に。」








オレの一言は誰にも届くことなく、夏の蜃気楼と共に漂った。





そう、内緒話だ。






オレだけの内緒話。



『あのね…内緒だよ…?』






まだオレはこの町に、花子に新たに訪れた危機に気付かない。

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